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地球千鳥足Ⅱ №51 [雑木林の四季]

アラスカの醍醐味、釣りと温泉 1

       小川地球村塾村長  小川律昭

 がむしゃらに「何でも見てやろう」だった今までの旅方針を、「良いところではのんびりしよう」に変え、最初に訪れたのがアラスカだった。夏場、アラスカ体験の旅のハイライトは、サーモン釣りと野性の親子ムースの現れた原野の温泉だった。アラスカ観光局が力をいれるワイルド・ライフ、つまり自然の中の動物をウォッチングするのは、大いに運に左右されたが、この体験は上首尾であったと思う。

 日本国土の四倍に六十万人強の人口では、道路の数も舗装の質も限定されていて、レンタカーで行けるところには制限があった。それに当然ながら夏場に工事するので、道路の渋滞に予想以上に時間を食った。また、観光関係者は夏場三か月のかき入れ期間で、ほぼ一年分の収益を上げねばならない。したがって観光は業者サイドや州の観光事業に組み込まれていて、個人では自由に活動しにくいシステムになっていた。特に氷河観光、サーモン釣り、マッキンレイ、野性動物のウォッチングなどは、現地観光業に組み入れられる。限られた期間に多くの観光客が訪れるので、需要と供給の関係で物価高は当然の結果であろう。

 まずサーモン釣り。アンカレッジのあるB&B(ベッド・アンド・プレックフアスト)で、川でのサーモン釣りに来ていた日本人に出会った。彼はこのアンカレッジ駐在の経験者。懐かしいのか毎年来ていると言う。彼は、三日間で八匹を釣って冷凍して日本へ持ち帰った。私の場合は初めての釣り。釣り場の様子も釣る芸も、仕掛けも何もわからないズブの素人。釣るためには道具も借りて指導してもらわなければならない。そのB&Bによると、釣りの案内を含めて二五〇ドルと言われた。高いし、それなら共同で釣り場に行ける海釣りに参加すれば要領も教えてもらえるし、餌をつける手間も要らない、と釣り場は海に決めた。

 観光用ローカル空港のあるタルキートナから南下して、スワード港に直行した。その日のうちに釣り舟を予約。料金は青コースで六〇ドルにライセンス料一〇ドル(一日ライセンス)を加算。ボートは六人乗り、ワイフが辞退しこっちは一人なので、家族五人組で予約していた残りの一席に割りあてられた。乗船は翌日、当日は雨模様の曇り空で釣りには絶好とか。釣りのあいだ通り雨に数回あった。収獲は七匹(規雲は六匹以下だそうだ)、大物ではなかったが満足すべき成果だった。

 港から二時間沖に出て舟がとめられた。六本の釣竿が、流し釣り二本と錘をつけた深い底釣りにわかれて仕掛けられていた。餌はプラ擬似餌に蒸した魚の切り身を併用。キャプテンは時々船体を一八〇度ずつ回転させて位置を変えた。サーモンは回遊していると説明してくれ、釣る要領も教えてくれたが、私は英語の説明が開き取れなかったので見よう見真似での釣りだった。乗船して名前と住所、ライセンス番号を記入させられたが、ライセンスを持っているのはこの夫婦と私の三名だけだった。それなのに三名の子供たちも、一人前に釣り順番を待ち、引いている竿に飛びつくようにしてそれを奪うので、五対一のチャンス。だからこちらの出る幕がなかなかこない。

 家族組は二人しかライセンスを持っておらずこちらは一人だから三回に一回の釣順なのに、六回に一回では不公平だ、と抗議した。すると家族の主人は「子供たちはライセンスはいらない」と言う。家族の風采からして子供たち三人分の料金を支払ったようなリッチな家族には見えない。東海岸はずれのメイン州から来たと言っていたが、飛行機代だって大変な金額だ。釣り料金となると、五人分払えば九〇〇ドル、ライセンス料二人分二〇ドルで九二〇ドル、十一万七〇〇〇円だ。とてもこの家族たちが支払っているはずがないと思えた。
 だからこの釣り順はどうしても解せない、と不信感に見舞われ、それなら早く引き竿を掴んだ方が勝ち、と競争意識が高まり、昼食もせず竿先をジーツと睨みながら待った。精神的ストレスと空腹に耐えている自分に自問自答し、「面白くない。来ない方がよかったかなあ」と不満はつのる一方だった。

 キャプテンが子供たちに釣り順を指示しているので、奴らも料金を支払ったのだろう、とある時点で推測したものの、どうせいやらしい家族だ、思っているようにさせればいいや、という心境に変わり、二時過ぎ昼食をとってくつろいだ。それにしても英語が自由に話せたら、婉曲に聞き返すことが出来たのだが。身から出た錆だから仕方がなかった。

 帰船五時までに釣ったサーモンは全部で三十九匹、並べられると見事だった。私の釣ったものにはエラに切り口が入っており、見分けられるようになっていた。大きいのは家族連れの収獲であったが、これはその時の連、釣れた時の手応えも充分味わったことだし、満足だった。ただ手元まで引き寄せ、綱で掬い上げる寸前に三匹逃がしてしまったのは、リールの巻きと竿を引き上げる力のバランスが悪かったからだ。水面上に獲物を引き上げては駄目だ。最後に逃した一匹はキャプテンに叱られた。手元に引き寄せた時、獲物が見えなかったからだ。見える位置に身体を乗り出さなければならないのだ。引く力が強く、私の足がよたついて竿の操作が思うように出来なかった。だが失敗したからこそ、その要領も覚えたのだ。
 ポートには、釣った獲物をぶら下げて写真を撮る場所が設定されていた。自分のものは三枚におろしてもらい、身の部分をもらって帰った。どっしり腕に応えた収獲だった。

 チナ (Chena)温泉に浸かった。北緯六五度以北に位置する温泉は、こことアイスランドぐらいのものだろう。この野外温泉は、大岩に囲まれた大池のような規模で砂底からお湯が湧く。プール温度は摂氏四四度、夏場は多量の水で薄めないと入浴出来ない状態だ。混んでもよいとすれば三百人は入浴出来る広さだったが、いつも十人前後しか入っていなかった。泳ぐのも自由で、一日三回、のんびりくつろがせてもらった。浴槽の蒸気範囲
から外れると蚊の集団に襲われるので、湯辺に寝そべるわけにはいかない。だから高温ぎみの露天を避け、ジャクジなどの浴槽に多くの人が浸かっていた。屋内外には、ジャクジとプール、合わせて五箇所設置されていた。これらは騒々しく、家族連れで賑わっていた。二泊したが朝はムースの親子連れが水を飲みにやって来て、湯治客や観光客の人気を集め、ほほえましい光景であった。

『万年青年のための予防医学』 文芸社
 


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