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郷愁の詩人与謝蕪村 №34 [ことだま五七五]

冬の部 6

          詩人  萩原朔太郎       

水仙や寒き都のここかしこ

 京都に住んでいた蕪村は、他の一般的な俳人とちがって、こうした吾妻琴風(あずまごとふう)な和歌情調を多分に持っていた。芭蕉の「菊の香や奈良には古き仏たち」と双絶する佳句であろう。

この村の人は猿なり冬木立

  田も畠(はたけ)も凍りついた冬枯れの貧しい寒村。窮迫した農夫の生活。そうした風貌(ふうぼう)の一切が「猿なり」という言葉で簡潔によく印象されてる。

西吹けば東にたまる落葉かな

 西から風が吹けば東に落葉がたまるのは当り前で、理窟で考えると馬鹿馬鹿しいような俳句であるが、その当り前のことに言外の意味が含まれ、如何いかにも力なく風に吹かれて、鉋屑(かんなくず)などのように転(ころ)がってる侘しい落葉を表象させる。庭の隅(すみ)などで見た実景だろう。

寒菊や日の照る村の片ほとり

 冬の薄ら日のさしてる村の片ほとり、土塀(どべい)などのある道端に、侘しい寒菊が咲いてるのである。これも前と同じく、はかなく寂しい悲しみを、心の影でじっと凝視しているような句境である。因(ちな)みに、こうした景趣の村は関西地方に多く、奈良、京都の近畿(きんき)でよく見かける。関東附近の村は全体に荒寥(こうりょう)として、この種の南国的な暖かい情趣に乏しい


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