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地球千鳥足Ⅱ №50 [雑木林の四季]

オモニは強し、「へその緒自分で切りました!」
          ~大韓民国~

       小川地球村塾塾長  小川彩子

 韓国唯一の萱葺き屋根の村がここ、済州島にある城邑民俗村だ。民族資料保護区に指定され、住民1500人が縄で押さえたモンゴル風の屋根の伝統家屋500軒に住む。この村の生活を説明するガイド、50代後半の女性、Jさんの能弁とユーモアのセンスに驚いた。自然な発音の流暢な日本語だ。
 Jさんいわく、「ここは男のパラダイス、ここは夜やかましい村です(笑)。男の子が生まれるまでお産をしなければなりません。私は4人目で男の子が生まれましたが、生まれてなければまだこの年で頑張らなければ(笑)。この村は男にとっては死ぬまで連休です。
この家では嫁さんが逃げました! 旦那が働かないので女が仕事をします。水がなかったので、オモニ(母)は重い水ガメを背負って1日10回水を運びました。だから足腰が強くなりました。女は丈夫になります。五十肩はありません。子どもを7人産んだ人も腰は曲がっていません。一人でお産する人が多いですが、私も一人でお産して、へその緒を自分で切りました。旦那が家庭を守らないので母が子どもを守ります。名門ソウル大学には済州島の子どもが一番多いんです。馬骨スープを飲むので入れ歯はありません。アルツハイマーもこの村にはありません。83歳の母は海女、今も海に潜りますが、もっと年上の人も潜っています。母が海女として日本に招待されたら自分は通訳として行こうと楽しみです。でも逃げて行く所も大阪に決めていますよ!(笑)…」と、シャレや下ネタで何度も笑わせてくれたが最後は悲歌、「アリラン」で締めた。自分の人生を回想しつつ歌う哀調が感染し私も同じムードで唱和した。
 済州島に多いものが3つある。石、風、そして女性だ。なぜ女性が多い、即ち男性が少ない?その理由には漁師たちの海での遭難もあるが、他に済州島の四・三事件が挙げられよう。第二次大戦終焉後、済州市内で自主独立国家の樹立を訴えるデモ中の島民に警察が発砲し6名が殺害されたが、これを契機として在朝鮮アメリカ陸軍司令部が警察官や右翼青年団体を済川島に送り込み、島民を弾圧し、虐殺を重ねた。日本に逃れた島民もいた。
虐殺は足掛け10年ほどの間に合計5万人とも10万人ともいわれる。やむをえず一夫多妻の時代もあったようだが、男性パラダイス時代の背景には悲惨な流血事件があったことを心に刻まねばならない。
 済州島はリゾート地、新市街はインフラが素晴らしい。過酷な歴史に翻弄され1970年代まで辛酸を舐めてきた島民だが、1988年のソウル・オリンピック景気で暮らしが向上し始め、2000年ぐらいから生活と人生を楽しんでいる。見目麗しい女性と長身の青年が目立ったが、「きれい」や「かっこいい」が褒め言葉、背を高めるクリニックは韓国だけとか。子育て上手な観光バスガイドの金さんいわく、「膝を刺激するのが良いんです。成長期の縄跳びは大変効果があります」と。大韓航空の添乗員さんたちはみな身長が高く、162センチ以上が条件だそうだ。
 観光の見所については割愛するが、大浦海岸の柱状節理に白波が砕ける景観は一幅の絵以上だ。韓国料理にも触れておこう。オギョプサルは済州島名物、黒豚の焼き肉で、適度に脂を落として頂く。海鮮トッペギは海産物から出る美味しい汁と香味野菜のスープ、海の香りが素晴らしい。南米のソパ・デ・マリスコスを思い出し懐かしかった。訪れたのは四月、桜もあり、新緑と人々の笑顔が目に沁みた。 (旅の期間‥2013年 彩子)

『地球千鳥足』 幻冬舎


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