SSブログ

郷愁の詩人与謝蕪村 №33 [ことだま五七五]

冬の部 5

        詩人  萩原朔太郎

愚(ぐ)に耐えよと窓を暗くす竹の雪

  世に入れられなかった蕪村。卑俗低調の下司(げす)趣味が流行して、詩魂のない末流俳句が歓迎された天明(てんめい)時代に、独り芭蕉の精神を持(じ)して孤独に世から超越した蕪村は、常に鬱勃(うつぼつ)たる不満と寂寥(せきりょう)に耐えないものがあったろう。「愚に耐えよ」という言葉は、自嘲(じちょう)でなくして憤怒(ふんぬ)であり、悲痛なセンチメントの調(しらべ)を帯びている。蕪村は極めて温厚篤実の人であった。しかもその人にしてこの句あり。時流に超越した人の不遇思うべしである。

蒲公英(たんぽぽ)の忘れ花あり路(みち)の霜(しも)

 小景小情。スケッチ風のさらりとした句で、しかも可憐(かれん)な詩情を帯びている。

水鳥や朝飯早き小家(こいえ)がち

 川沿いの町によく見る景趣である。
 水鳥や舟に菜を洗ふ女あり
と共に、蕪村の好んで描く水彩画風の景趣であって、薄氷のはる冬の朝の侘(わび)しさがよく現れている。

水仙や寒き都のここかしこ

 京都に住んでいた蕪村は、他の一般的な俳人とちがって、こうした吾妻琴風(あずまごとふう)な和歌情調を多分に持っていた。芭蕉の「菊の香や奈良には古き仏たち」と双絶する佳句であろう。

『郷愁の詩人与謝蕪村』 青空文庫


nice!(1)  コメント(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。