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地球千鳥足Ⅱ №47 [雑木林の四季]

悪魔の塔は呼ぶ

     小川地球村塾村長  小川律昭

 山岳や平原の中に、にょっきりと円筒状の岩石が空に向かってそびえ立っている。異様な光景である。ただの岩石と思いきや、近付くにつれてその状態の複雑怪奇さに日を見張る。下から頂上まで細長い相似形の岩を張り付けたように、縦の切れ目が刻まれ、それが全周にわたっている。ところところ長方形の一部が崩れ落ちており、新しい岩肌が露田している。この世にも希なる岩を人呼んで「デビルズ・タワー」(悪魔の塔)。 映画「未知との遭遇」の舞台になったところ。この岩はワイオミング州の西端にあり、かつてはネイティブ・アメリカン、スー族の本拠地。岩だらけの草原が広がるところにある、眼前にあるタワーは信州の「鬼押出」で見かけるような大岩を裾野にし、突っ立っている。地上二七〇メートル、頂上の平たいところは、フット・ボールがやれる広さだと言われる。そこでは鼠、とかげ、蛇などが生息している。

 この塔の呼びものは、ハーケンとロープを使うロック・クライミングである。登る者のみならず、彼らの演出のおかげで、ただの訪問者も楽しさが倍加する。管理事務所に登録すれば誰でも登れるとか。彼らは一人か二人組であり、そのほとんどは上半身裸である、塔の周りじゅうで登っている。登り始めた人や、中間の岩場で休んでいる人、中途で思案に暮れている人、さまざまだ。場所によっても難易がありそうだ。観光客に見られていることを意識することがみずからの励みになっているのだろう。ロープで登るのは八合目まで、後は岩伝いに難なく頂上まで行けるのか頂上近くを歩いている人が二人、三人見えかくれする。そこまで到着するにはロープ一本がたより、楽しんでいるように見えても実際は命がけの冒険である。下から見上げても垂直岩に見えるのだから、本人たちは上から岩が覆い被さる絶壁にぶら下がって登る感じだろう。若かったら仲間に入れてもらってチャレンジしたいと思ってしまうほどだ。

 彼らのエネルギーに感動させられながら、塔の固辺を一周する。裏側には赤松林があり日本の山岳地帯に似ている。一周は約一時間、どの位置から見てもクライマーがいる。チャレンジ魂がここに集結していることを実感し、力が漲(みんぎ)る思いになる。                                                                       

         (一九九八年九月)


迷ってみたい白い砂丘

 見渡す限り小山をつなぎ合わせた真っ白な平原、六〇〇平方キロにも及ぶ広大な砂丘、ホワィト・サンドはここニュー・メキシコ州の都市、アルバカーキーの南五〇〇キロの砂漠地帯にある。かつては原爆実験がなされた地域でもあるが、観光地としての知名度は低い。同じ州のサンタ・フ工も、かつて宮沢りえの写真撮影で知られたぐらい、交通の不便さも手伝ごしか、知る人ぞ知る場所である。l近年、温暖な気候が理由で州南部が保養地として見直され、州の人口は増加傾向にある。四月の初句、同辺の平地は萌黄色の新線に包まれた美しい風景となり、山岳ではスキーが楽しめる。

 ホワイト・サンドの入り口から、左側に潅木を交えた白い砂丘が広がること四キロ、周囲が真っ白に覆われた砂丘のど真ん中に出る、車のためにあけられた道の両側には、行けども行けども真っ白の砂山が折り重なる。途中のところどころに枝道があり、入って行くと見ビころがある。中心部はループ・ドライブになっており、ピクニック・エリアがある。車から降りて五メートルから十五メートルの砂山を駆け上がると、ホワイト・サンドがぐっと身近に感じられる。目の前は無制限に広がる砂丘。子供を遊ばせる家族連れが多い。子供たちは落差を利用しての砂滑りに興じている。少し歩けば人影はない。人の歩かぬ砂山に、幾何学的波紋がくっきりと天然美をかもし出している。波紋にうねる真っ白い砂山が陰と陽の芸術を展開し、空は紺碧、見晴らす山々は墨色に霞む。あり余る紫外線の恩恵にあずかるべく水着で日光浴をする。海辺とここの違いは風邪を引かないことだけ、と現地のガイド・ブックにある。

 なぜ、太陸の奥地にこのような砂丘が存在するか。その理由は何万年もの以前、近くの山から石灰分が流れ出て湖を埋め、そこで結晶化。その後何世紀もかけ、乾いた南西の風で風化した粉体が飛ばされて出来たという。今日現在でも活動し続けているというが、自然の芸術に感動させられる。朝夕の光と陰を追っての写真撮影には絶対の場所、おおくの人が、、この大自然の贈り物の恩恵に浴することが出来るよう願っている。

                                       (一九九五年四月)


『万年青年のための予防医学』 文芸社 


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