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西洋美術研究者が語る「日本美術は面白い」 №106 [文芸美術の森]

                       奇想と反骨の絵師・歌川国芳

                美術ジャーナリスト 斎藤陽一             

        第1回 はじめに~国芳登場~

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 この号からしばらくは、江戸時代後期の浮世絵師・歌川国芳の絵画世界を鑑賞していきます。

 歌川国芳(1797~1861)は、歌川広重と同年齢です。広重が「名所絵」と呼ばれた風景画のジャンルで名声を高めたのに対して、国芳は、豊かな想像力と奇想天外な着想、斬新なデザインなどによって、あらゆるジャンルの絵に挑戦した浮世絵師です。その作品群は、現代のグラフィック・デザインにも通じるものとして、近年とみに人気が高まっています。

 幼い頃から絵を描くのが好きだったという国芳は、15歳の時、当時、多くの門弟を抱える浮世絵界最大のグループ「歌川派」総帥・歌川豊国のもとに入門、絵師のスタートを切りました。
 しかし、多くの兄弟子たちの蔭で、なかなか才能を発揮する機会が得られず、しばらくは困窮の時期が続きました。

≪国芳得意のパノラマ画面≫
 早速、若い頃の国芳が描いた「平知盛亡霊の図」(24歳頃)を見ましょう。

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 この絵は、大判サイズの和紙を3枚つないだ「三枚続」と言われる国芳得意のパノラマサイズの大画面です。
 描かれる物語は次の通り:
 兄の源頼朝に追われる身となった源義経は、西国に逃れようとわずかな家来を連れて大物の浦を船出したところ、にわかに空がかき曇り、嵐が起こる・・・・
 そこに、壇ノ浦で義経に滅ぼされた平知盛と平家一門の怨霊が現われて行く手をはばんだ。
 義経は太刀を抜いて戦おうとしたが、武蔵坊弁慶はこれを押しとどめて数珠を揉んで祈祷し、法力によって亡霊を退散させた・・・という謡曲「船弁慶」に由来する物語です。

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 青ざめた般若のような形相で、荒れ狂う波間に浮かび上がる平知盛の鬼気迫る描写が見事。逆巻き、うねり、からみあって渦を巻く波の描写も迫力があり、平家の強い怨念を象徴しているかのようです。
 さらに、知盛の衣装の色合いがまことに斬新ですね。

 一方、船べりで平家の亡霊と対決する弁慶と亀井重清。
 重清は、亡霊に太刀をつかまれ、海に引きずり込まれようとしている。
 弁慶は、平知盛の亡霊をにらみ据えている・・・
 亡霊の顔つきは、怨念のこもったすさまじい描写です。

 このあと、弁慶は数珠を揉んで亡霊たちを退散させることになります。

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 義経一行が乗った船を上から見た視点をとり、クローズアップで切り取った構図は大胆で、斬新です。
 国芳初期のこの絵には、既にその独特の画才とともに、幻想世界への好みが濃厚に表れています。とは言え、まだ国芳の芽は出ず、苦境がつづきます。

 次回も、歌川国芳の絵画世界を紹介します。

(次号に続く)




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