SSブログ

地球千鳥足Ⅱ №23 [雑木林の四季]

 警察署でインテグリティー説教
   ~ドミニカ共和国~

        小川地球村塾塾長  小川彩子

 カリブ海に浮かぶイスパニョーラ島のドミニカ共和国はコロンブスが第一歩を印した地、ハイチと隣り合う国だ。経済発展よろしく物乞いは見かけない。国産ビール、presidentのせいか老いも若きもおなかポッコリだ。プンタカーナ近くのリゾート、ババローで淡碧色のカリブ海を満喫した後、カリブ諸国中の最大都市、新大陸最古の町、サント・ドミンゴにやって来た。クリストファー・コロンブスの子孫が3代にわたって住んでいた建物、アルカサールは、優雅なダマス通りをちょっとそれると行き着く旧市街の中心にある。他の見どころは観光バスで回ろうとホテルで予約した。
 やって来た男は小さな旅行会社の副代表と言い自称マイク、お祭り会場のマイクのごとく調子よく喋った。「市内観光バスと同じ費用で見どころ15か所をタクシーで巡ってあげる」と観光地の写真を見せ、喋りまくった。この地でよく見かけるイモリにそっくり。車に乗ったら「あれは別予算、これも別」とマイクは約束を守らず領収書もなし。「よし、時間があったら教育してやろう」と教師の血が騒いだがその時は胸に収めた。
 トレス・オホス (3つの目)という湖に行けたのは幸いだった。洞窟の長い階段を降りると現れる翡翠(ひすい)色で底なしの湖。畏怖を感じる静寂の中、引き込まれそうに美しい。もちろんインディへナの神聖な場所だったが、インディへナはスペインの征服者に皆殺しにされたという悲しい歴史がある。「絶対再訪するぞ!」と思う特別神秘な湖だ。
 マイクの車を降り、北海岸に向かい、プエルト・プラタの白い砂浜や要塞、ポカ・チカの例を見ない遠浅の海岸で多くの純情な人々との交流を楽しみ、5日後サント・ドミンゴに戻って来た。
 旧市街にある小さい警察署に立ち寄った。若い柔和な警察官が最初から好感を持って聞いてくれた。単なる騙され話ではつまらないのでレシートなしの税金逃れを中心に。報告中に彼がどこかに電話した気配もなかったのに10分後「その男が警察署に来ています」という。署の要員が気を利かして呼んだらしく、イモリ君ことマイクは入り口の門の桝に立っていた。警察署の近く、コロン公園に奴の事務所があったのだ。事件後5日も過ぎていて何事かと不安になったのか、彼は公園にたむろしている子分を連れており、紙幣をちらつかせ、言い訳を準備していた。彼いわく、「あの日はコンヒューズ(混乱)していました…‥。いくらお返しすればいいですか?」。「領収書はすぐ書きます」。子分らしき男も「コンヒューズ、コンヒューズ」と口真似した。警察署の入り口に人だかりができ始めた。制服警察官と小回り署員、日本人の女とその夫、公園周辺で顔を利かすイモリ連、という顔ぶれが立っているのだから通行人の興味を惹いたのだろう。私の出番だった。
「そんなお金が欲しくて旅の道中、貴重な時間を割いて警察署に立ち寄ったのではない。私は嘘つきは嫌いだ。車に乗る前の説明と実際とが異なるのが問題だから来たのだ。私は大学で多文化教育を教えている。特にインテグリティー(Integrity)の重要性について話すことが多い。インテグリティーとは信用、即ち『言ったことと行動が一致すること』だ。私たちがドミニカ共和国で会った人たちはみんな純情で素敵だった。マイクを除いて—」
とイモリ君を指差した。拍手が起こった。若い警察官や彼を呼んでくれた署員を始め、イモリの子分まで笑った。“Except for MIke「(「マイク以外は」皆さん素敵)が受けたのだった。指を差されたマイクまで苦笑いした。やがて警察署員2人が「来てくださって有難う!」と育ってくれた。小さな事件を知らせに立ち寄ったことを親切と受け止め、巷の情報も役に立ち、警察署門前の説教も喜んでくれたのだった。
 警察署を出るとすぐマイクは先ほどちらつかせたお金は引っ込め、「コーヒーは好きですか?」と聞いた。彼はドミニカ・コーヒーを買ってきて手渡し、子分と一緒に消えた。
日本に戻り、私は「お喋りイモリ君」を思い出しながら今香りの良いコーヒーを飲んでいる。                       (旅の期間一2010年 彩子)

『地球千鳥足』 幻冬舎



nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。