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山猫軒ものがたり №17 [雑木林の四季]

栗林の豚小屋 1

             南 千代

 ゴーン、バラバラバラ、ゴーン。朝、トタン屋根に石でもぶつけられているよう音で、目が覚めた。何だろう。庭に出てみて音の正体を知った。栗の実がはじけて屋根の上をころがっている。大家から拾っていいと言われていたので、それからの食卓は栗攻めであった。
 ゆで栗、栗ごはん、中華風炒め煮、渋皮煮、栗きんとん、栗甘納豆にマロングラッセ。この時とばかりに、あらゆる栗料理を作ったが、何日も続くとさすがに飽きる。
 食べるのが飽きるのではなく、栗の皮むきが大変なのだ。スーパーに、皮のむいてある栗が並んでいる理由がよく解る。あれは、パートのおばさんがむいているのだろうか。それとも、栗の自動皮むき機というのがあるのだろうか。
 それでも、拾うことは楽しかったので、拾い続けて、もっぱら友だちへの手土産にすることにした。
 ここへ越してきて、しぼりたての牛乳も手に入るようになった。
 自然卵養鶏法では、鶏の体液の弱アルカリ化や卵黄のコレステロールを下げるためなど、さまざまな効用からノコクズ発酵飼料をエサに混ぜる。私たちは、合板など薬剤のしみ込んでいないノコクズをもらいに、渋谷の恵比寿まで定期的に出かけていた。そこで軽トラックいっぱいにノコクズを満載してくる。その量は、余るほどあった。
 そこで、ちょうど牛舎の敷きワラ代わりにノコクズを必要としていた丘の上の牧場にも分けることにした。お礼にと毎週、一升瓶一本の牛乳がもらえた。
 しぼりたての牛乳は、口あたりがアッサリしている。しぼりたて、というと観光牧場などで飲むようにコクのある濃い味をイメージしていた私は、なぜだろうと思った。調べてみると、市販牛乳のように、ホモゲナイズしていないためだとわかった。その代わり、しばらく置いておくと、上部に生クリームの層ができる。
 ホモゲナイズというのは、このように脂肪が分離してクリーム状になってしまうことを防止するためと、消化吸収をよくする目的で、脂肪球を機械的に細分、均一化する処理である。
 市販ヨーグルトのひとさじをスターター(種)としてヨーグルトを作ってみたり、水分を絞ってカッテージチーズにしたり。牛乳として用いる以外にもさまざまな使い方を試してみた。
 バターやチーズなどに自分で加工して使いたい場合は別だが、牛乳としてそのまま飲むのであれば、そのままの生乳よりホモゲナイズしてある方がおいしいと、私は思う。
 もっとも、市販している牛乳は、観光牧場の「しぼりたて」といえども、殺菌してホモゲナイズして売られているので、生乳を一般に手にする機会はあまりない。
 予定より一カ月早く、暮れの十二月にちらほらと卵を産み始めた鶏たちは、春になるといっせいに産んだ二羽ずつ狭いケージで飼う企業養鶏のように、毎日一個も二個も産むわけではなかったが、それでも玉子の旬である春には、毎日三十個は採れた。当然、自家用を上回ってしまう。しかし、余る玉子をどうするかという問題は、すぐに解決した。
 最初は、ようやく産み始めたというので、大家を始め、世話になった地元の人たちにあげた。すると、定期的に分けて欲しいという人が、出てきたのである。主にお年寄りである。
「昔の玉子の味がするよ」
「孫が、この玉子なら生で食べるんだ」
 などというのが、その理由である。散歩がてら山猫軒にやってきては、臭いひとつしない鶏舎の中で、走り回ったり砂遊びをしている鶏を眺め、玉子を買っていってくれる。
 玉子は、箸で黄身をつまんで持ち上げることができるほどに、丈夫で新鮮、おいしい。

『山猫軒ものがたり』 春秋社



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