SSブログ

郷愁の詩人与謝蕪村 №5 [ことだま五七五]

春の部 2

         詩人  萩原朔太郎


春雨や小磯の小貝濡ぬるるほど
 
 終日霏々ひひとして降り続いている春雨の中で、女の白い爪つめのように、仄ほのかに濡れて光っている磯辺の小貝が、悩ましくも印象強く感じられる。
 
片町に更紗さらさ染めるや春の風
 
 町の片側に紺屋こうやがあって、店先の往来で現に更紗を染めているという句であるが、印象としては、既に染めた更紗を、乾燥のために往来へ張り出していると解すべきであろう。赤や青やの派手な色をした更紗が、春風の中に艶なまめかしく吹かれているこの情景の背後には、如何いかにも蕪村らしい抒情詩があり、春の日の若い悩みを感ずるところの、ロマネスクの詩情が溢あふれている。
 
春水しゅんすいや四条五条の橋の下

 この句を読んで聯想れんそうするのは、唐詩選にある劉廷芝りゅうていしの詩「天津橋下陽春ノ水。天津橋上繁華ノ子。馬声廻合ス青雲ノ外ほか。人影揺動緑波ノ裏うち。」の一節である。おそらくは蕪村の句も、それから暗示を得たのであろう。唐詩選の詩も名詩であるが、蕪村の句もまた名句である。

『郷愁の詩人 与謝蕪村』 青空文庫
 


nice!(1)  コメント(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。