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地球千鳥足Ⅱ №22 [雑木林の四季]

天国に一番近い島の異邦人
  ~ニューカレドニア(フランス領)~

       小川地球村塾村長  小川律昭

 地球上最も天国に近いという所はあちこちにある。ここニューカレドニアもその一つだ。
宣伝効果もあるのか日本から新婚さんはもとよりリゾート目的の家族やマリンスポーツを楽しむ若者が多くやって来る。長さ400キロ、幅50キロの細長い島だ。1600メートル級の山もあって自給自足の生活もできるが、豊かな暮らしは観光収入がもたらしてくれる。国際空港から首都ヌメアまで50キロと遠いのはなぜか。政治的な意図で周辺の発展を促すためか。観光客には迷惑な距離だ。滞在したのは滑るようなフランス語が飛び交うアンスバタのヌバタパークホテル、特に印象に残るのはサンセットだった。ビールを飲みながら浜辺で観賞する日没前の太陽は過去、現在すべてを忘れさせてくれる。我が余生に残照の輝きを与えてくれるのではないか、との思いでいつまでも入り日の残像と余韻を味わうことができ、天国にいるような幸せを感じた。ホテルの一角で日本の若者がダイビング資格取得教室を開いていた。日本語でビジネスしている観光会社も沢山ある。
 150年前この国でニッケル鉱が発見され、明治末期から大正にかけて日本から鉱山労働者が5500人ほど出稼ぎに来た。ここで死亡した人たちのお墓参りをした。刻まれた百数十人の名前を見て往時を偲んだが、出稼ぎ当時の日本の貧しい暮らしが容易に想像できた。いつの時代にも勇気ある者は新開地を求めて国を飛び出す。日本の大先輩たちの歴史的海外移住経緯を知るために墓地を訪ねるのも我々夫婦の旅である。バスで最寄りまで行ったがわからず、訊く人もいなかった。が、やがて車で通りかかった青年に救われた。車に乗せて墓地の入り口まで送って頂き、果物や水まで頂いた。その親切に感謝して墓参、帰りも別の家族連れの車に拾われ、ヌメアへのバスの便数が多いバス停まで乗せてもらった。大先輩たちの苦難の人生は歴史的事実、日本人として忘れてはならないと肝に銘じた。
 サンゴ礁に囲まれた澄明かつ紺碧の海で南国の太陽をいっぱいに浴びて泳ぎ、砂浜では甲羅干しを楽しんだ。ここに来ているヨーロッパ人は上半身裸で身体を焼いていた。丸出しはやはり中年が多かったが母と娘が並んで胸を見せ、寝転がっている姿もあった。シドニーから1週間と余裕ある旅を組んできたなら、周辺の島めぐり等で地上の楽園を味わえる。本島や周辺の島、ラグーン全体が世界自然遺産で、サンゴ礁の代表格であるウベア島には行けなくともアメデ烏やシータクシーでも行けるメルト島などで興ずることもできた。
 近くの砂浜で会った親子3代の家族連れ、老紳士と娘親子を紹介したい。言動からしておじいさんが孫のために海外の海を楽しませてやろうといった感じだった。お金を与えるより体験をプレゼントすることの意義を重視したのだろう。微笑ましい光景だった。美味しそうな食事を囲んでの会話は絵になるシーンだった。孫の素晴らしい人生が予見できる感じがした。体験こそ財産。シニアの行動見本の一例を見せられた思いだった。
 最近は若者や家族連れよりシニアたちの存在を意識するようになった。自分たち夫婦と比較するからだろう。もちろんそれぞれの境遇の中での生き方を考える。私たちは結婚50周年記念、世界二周の旅で立ち寄った。天国に最も近い所とはどんな所だろうかと。単なるリゾートか。複雑な人間関係から逃れてボヤーツと無心で過ごせる所だろうか。自然環境の抜群さから健康的で心身を活性化でき、自然を相手に年齢なりの行動が楽しくやれるから、か。添加物いっぱいの食品類から解放されて魚や果物、野菜類の自然食で伝統的食生活が味わえ、健康や精神の高揚に役立つからか。それぞれの願いは違っても現況の俗っぽい社会環境では体験できない異なる生活がここに存在するということだ。
 天国に近いこの島へ来てから結構お金がかかったことも事実だ。いずれ本物の天国に行きたいのなら「お金の価値はここで使って試してください。海に突き出したピアーでワインとフランス料理を楽しんでください!」。せっかくのお膳立て、素直に参加すべきだ。
                      (旅の期間‥2011年 律昭)

『地球千鳥足』 幻冬舎



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