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地球千鳥足Ⅱ №19 [雑木林の四季]

手がパンパンに腫れようとは!

      小川地球村塾村長  小川律昭

 今度は根っこの事件だ。文明国のアメリカに、木の根の除去を商売にした会社が沢山あることを知っている人は少ないだろう。排水系の土管などに詰まった木の根を排除する仕事である。
 古くからの家屋のほとんどは、森林に囲まれた地域の住宅で、排水管は土管であり、土管の継ぎ目や亀裂個所から木の根が入り込み、中で成長して、網の目となって排水をストップさせてしまうのである。木の根は、幹や枝と同じ長さで地下で成長するといわれている。根を張る勢いは相当な威力であり、土管など浮き上げたり、壊したりするのだから、土管内に入り込むことなど容易である。その排除がこの国でいい商売になるのは、当然といえば当然、木々に囲まれた住宅が多いのだから。

 今回は屋外の排水管が詰まった。初回はワイフが一人で住んでいた時で、そのような事故は予想もしてなかったことゆえ、排水が一階の床上に浸水してカーペットが水浸しとなり、悲鳴のような電話をしてきたが、隣家にはその経験がなく、原因がわかるまで苦労し、やっと木の根の掃除屋があることを知って解決したという。その後一、二年の間隔で定期的に排水の逆流が起こり、慣れてはきていた。特に夏期、不在が長いと配水管に水が流れないから根が猛威を振るうのだ。

 詰まった場所がわかっていたので自分でやろうと思いついたが、どうやって取り除くかが問題だった。曲がった土管だったので長い棒は入らない。びっしり泥で詰まっているから両側から棒を入れて距離的には貫通させたが、雨が降っても排水はしなかった。電話一本でルート(根っこ)除去屋を頼もうかと思ったが、自分で取れそうな気がしたので、よし挑戦、とばかり知恵と労働力による試行錯誤作業を始めた。

 まず棒の先に釘や木ねじを二、三本くつ付けた。抵抗を付与した棒を回転させることで根を巻き取り、引き出しにかかった。確かに細かい根が巻き付いていくらか取り除かれた。この作業を土管の両側から繰り返すことで、結構な量の根が取り出せた。その間、先端の木ねじや棒を新しいのと取りかえながら、除去量を増やし最後に大きい根を巻きつけて引っ張った。だが引っ張り切れない。思いきって引っ張ったら棒がすべり力の平衡を失って、手袋をしていなかった左手の指の背を壊れた土管の断面でえぐられた。泥だらけの指から血が噴出した。
  作業をやめ怪我の手当に走った。流水で泥だらけの手を洗ってオキシドールで消毒、リバテープで処置したが、じくじくと痛くてその後何もやる気にならず、ビールを飲んで風呂も入らずに寝てしまった。翌朝は指のつけ根まで腫れていた。その日は痛くもなかったから、腫れも引くだろうと思ったが、また夜中に痺き、その翌日は手首までパンパンに腫れた。この期に及んではほっておくことが出来ず医者に駆けつけた。予想通り、「デンジャラス(危なかったよ)⊥と言われ、注射、抗生物質十日分の服用、翌日診察に来るようにと指示された。

 薬が効いたのか次の朝は腫れが少し引き、皮膚表面に血管の浮いた状態があらわれた。安心感で一息ついた。事前に「根っこ屋を呼びなさいよ」と言っていたワイフは、「不注意ですよ。事故を未然に防ぐ準備が必要だ、といつも言ってるでしょ。軍手もしないでとげとげしい根っこと闘うなんて。“あ、しまった″が多すぎますよ」と、人の苦痛も知らないでここぞと電話をよこした。「早く医者に行かないとウイルスほど怖いものはないわよ」とも、豪そうに。

 処置された薬はペニシリン。医師は投薬が適切かどうか気になったようだが、こちらは二十年以上薬とは縁のなかった男、抗生物質なら何でも効くはず。それ以後は日が薬で全快にむかった。活動すれば色々なことが起こるものだ。医者は二回で一〇六ドル。根っこ屋に頼んでもそんな金額だったろうが、貴重な経験を得た今、作業を玄人に頼まず自分でやったことに後悔はしていない。
                            (二〇〇〇年六月)

『万年青年のための予防医学』 文芸社 


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