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西洋美術研究者が語る「日本美術は面白い!」 №99 [文芸美術の森]

            東洲斎写楽の役者絵
          美術ジャーナリスト 斎藤陽一

   第6回 「敵討乗合話(かたきうちのりやいばなし)」その2

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  前回に引き続き、今回も、寛政6年5月、桐座の芝居「敵討乗合話」を描いた写楽の役者絵を紹介していきます。
 もう一度、この芝居のあらすじをおさらいしておきます。上図を参考にしてください。

 宮城野としのぶ姉妹の父は浪人の松下造酒之進。病気であった造酒之進は借金をつくっており、そのため妹のしのぶは遊郭に売られてしまう。挙句の果てに、造酒之進は志賀大七によって殺されてしまいます。
 二人の姉妹は、艱難辛苦を耐え忍びながら、ついには父のかたき討ちを果たす、という物語です。

≪舞台を盛り上げる役者たち≫

99-2-2.jpg 歌舞伎では、物語の中心となる花形役者たちに加えて、観客を一層義理人情の世界に引き込んだり、芝居を盛り上げたりする役者たちも競演します。

 こちら(右図)は、宮城野・しのぶ姉妹を助けて、見事仇討を成就させる肴屋五郎兵衛です。 演じたのは当時58歳の四世松本幸四郎。気っぷがよく、男気のある役どころです。写楽は、幸四郎の実年齢にふさわしい顔のしわを薄墨で描き込み、人生の年輪を表現しています。

 五郎兵衛は、襖越しに宮城野としのぶ姉妹の話を聞き、二人の苦労話に打たれて何事かを思案しているのでしょう。
 「なんと哀れなことよ。こいつはひと肌脱いでやらにゃなるめぇ」

99-3-2.jpg 写楽は、桐座のこの芝居「敵討乗合話」でも、端役(はやく)である二人を一枚の絵に描いています。「ぼうだら長左衛門」と「船宿かな川やの権」です。(右図)

 写楽は、しばしば自分の役者絵に「対比」や「対照性」を持ち込んだ絵師ですが、この絵ほど「対比」がきわだっているものはありません。
 痩せた身体つきと太った身体つき、下がり眉と上がり眉、丸い目と細い目、鷲鼻と獅子鼻、半開きの口と「への字」に結んだ口、赤い着物と弁慶縞の浴衣・・・
 おそらく写楽は、芝居の物語とは関係なく、この二人の役者のコントラストに絵画的興味を持ち、端役とは言いながら、描く意欲をそそられたのでしょう。

99-4.jpg 歌舞伎はまた、ところどころに華やかな舞や所作事を取り入れて、舞台を盛り上げるショウ的な要素が求められる芸能です。

 桐座の「敵討乗合話」でも、駕籠かきの次郎作が、粋な着物を着て、お国自慢をしながら踊る所作事がひとつの見せ場になっています。
 これは、次郎作を演じる八世森田勘弥が、両手を袖に包みながら、身体をひねった決めのポーズをとらえたもの。
 勘弥の粋な舞姿を彷彿とさせます。

 以上、前回と今回で紹介した6点が桐座公演「敵討乗合話」を題材に写楽が描いた役者絵です。

 次回は、同じ寛政6年5月に、河原崎座が興行した芝居「恋女房染分手綱」を描いた写楽作品を紹介します。

(次号に続く)




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