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日めくり汀女俳句 №114 [ことだま五七五]

十二月二十六日~十二月二十八日

      俳句  中村汀女・文  中村一枝

十二月二十六日
大安好日餅のうまさに工夫あり
        『薔薇粧ふ』 餅=正月

 結婚してから私は、夫が、何を作ってもうまい、うまいと言うので驚いた。料理は好き
だが、そんなに手放しではめられると、ホントかなという気もした。しかし何年かたって
汀女を傍らから眺め、この人は料理や食物に特に興味のある人ではないと思った。それよ
りもずっと惹きつけられるものがあったのだ。ただ一つ、私の夫が「お袋の味」と称するもの、小麦粉とカレー粉を水で溶き適当な硬さにし、塩こしょうで味付けした中にコンビーフ、コーン、タマネギを加え油で揚げる。汀女フリッターは意外においしい。わが家の定番。

十二月二十七日
母に似る山茶花に歩を進むれば
        『芽木威あり』 山茶花=冬

 汀女の生きている頃の下北沢の家は、暮れから正月にかけて目の回るような忙しさと慌
ただしさだった。そばにいた義姉や義妹はさぞ大変だったろう。大晦日ぎりぎりになって、思い出したように身のまわりの片付けを始めるのも恒例。納戸に積まれたお歳暮を「好きな物を持って行きなさい」と汀女は言ぅ。何も手伝いせずにこんな時だけ欲しい物を貰うのは気がひけた。玄関を出ようとすると、ばたばたと駆けてきて、「ちょっとメロンがあるのよ。持って行きなさい」。言い方はいつも命令調だった。
 
十二月二十八日
遮断機に誰も一列年暮るる
         「山粧ふ」 年暮る=冬

 正月料理の中でも、黒豆は私の得意品目。 三十年以上前の、そこの所だけ茶色いしみと手ずれでぼろぼろになったノートを引っ張り出し、その年々の覚え書をみる。今年は二十七日に水につけたが、もう一日早い方がいいとか、水が多過ぎて味が薄過ぎる、とか、毎年違う所が素人の面白さ。二、三年前から藁灰であくをとる方法を友人から教わった。この方が上品で薄味、気に入っている。
 二十年越の黒豆得意というのが何人かいて、それぞれ楽しみに待っていてくれる。持って行ったり、宅急便で出したり、これも又 年の暮の忙しさの中の楽しみである。

『日めくり汀女俳句』 邑書林



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