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地球千鳥足Ⅱ №16 [雑木林の四季]

鉞(まさかり)振りおろそうとは!

       小川地球村塾村長  小川律昭

 アメリカで林の中の家に生活していると、大きな古木の倒壊による被害を想像しないでもなかったが、ついにその被害が我が家にも発生した。今まで落ちてきたのは古い大枝程度であったから、ひろうだけのことだった。音だけは大きく、大地を揺るがして驚かせるが、被害はわかった。ところが今回直径四〇センチの古木が、家屋のそばの革をターンさせるドライブ・ウェイに、電線をなぎ倒して散乱していたから驚いた。たまたまその瞬間には居合わせなかった。夕立の直前に出かけ、凄いサンダー・ストームになり、店で雨宿りしていた時で、まさか我が家がそのストームのターゲットにされていたとは。

 帰宅してみたら、倒木で家に出入り出来ないことを知り愕然とした。加えて電線などのケーブル類が叩きつけられている。電灯、電話が使えないな、と即座に思った。隣家の話によると嵐とともに最初に生木を裂く音、バリバリと折れる音、木が地面に叩きつけられる音、と連結してすさまじい状況を音で知らされたそうだ。彼らの助言で両の止むのを隣家で待ったが、気はそぞろで落ちつかなかった。小降りになり家に入ってケーブル系を調べた。電気、電話は大丈夫だったが、ケーブルTVは断線、まずは生活に支障がないことを知ってホッとした。

 次は隣家の協力で、散乱した倒木の片付けにかかった。小さな枝は片付いても、肝心な幹は切断しないと取り除けない。チェンソーで汗を流しながら、切断と運びの繰り返し。二時間かけすべての残骸を片付けた。ケーブルについては、車で直接踏んづけないように、板を凸の字に車の通る幅だけ敷いて保護した。後はケーブル系会社に連絡して修理させるだけだった。

 今回の倒木は地上二メートルのところで折れていた。生木でありながら、それは見かけだけで木に活力がなかったのである。この土地、表面三〇センチが山土、その下は粘土質であるから栄養が 取れないのだろう。この家はまだまだ多くの大木に囲まれている。そこで家の周囲を見回したら別の場所の古木が死木となって倒れそうな状態だった。倒木した場合は大枚が屋根を直撃する。心配になり切り倒して処理した場合の見積もりを取ったら、何と一三八〇ドル(税別)と驚きだった。高さ三〇メートルにも及ぶ木々のお蔭で春夏秋冬を楽しませてもらっているが、当然あるべき寿命、災難と思うしかないのだろうか。
 この事故で保険金が出ないかと、エージェントに行ったのは勇み足であった。免責分以上の被害ではないようだった。倒木を自分たちで片付けたからだ。頑張りついでに鉞を買って来て暖炉用の薪作りを試みた。生木ゆえ面白いように割れた。油断すると鍼がかすったりして木片が飛ぶから危ない。五十年ぶりの仕事だ。アメリカに来て鍼を振りおろそうとは思わなかった。
                   (二〇〇一年七月)

『万年青年の予防医学』 文芸社



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