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住宅団地 記憶と再生 №5 [雑木林の四季]

エッセン 2

     国立市富士見台団地自治会長  多和田栄治

4 カルナップ団地 Siedlung Karnap(pastor-Fliedner-Weg,45329 Essen-Karnap)
 
 マルガレーテンベールからひきかえし、ベルリナー・プラッツで乗りかえ、アレンベルグ通り駅で降りれば、カルナップ団地に行ける。駅をでて、近くの公園でたむろしていた青年に団地の写真をみせて所在を間いたら、団地中央にある教会までマイカーでつれていってくれるという。チュニジアから来た青年であった。
 カルナップ地区はエッセン市北端の炭鉱地帯であり、ライン=へルネ運河に並行してエムシヤー川が流れる。団地は1890年から1921年にかけマテイアス・シュティネス炭鉱の労働者住宅として建てられた。教会を要に扇状に、三角屋根、煉瓦づくりの平屋、1.5階建て、2階建て住宅が、はじめは2戸ペアの平屋住棟から、2階建て4戸つづき住棟へと配置されている。建物のタイプは20種をこえるといわれても、わたしには見分けがつかない。192棟、455戸に現在約1,250人が住んでいる。
 この肋方の炭鉱も1960年代に衰退、72年には廃坑した。しかしこの団地は、エッセンの数ある団地のなかでも保存状態がよかったせいか、記念建造物保護の指定をうけ、さきの用Aエムシヤーパークの援助でファサードの造形デザインから窓や玄関の細部まで復元されて、いまに逸っている。どこの玄関まわりも草花できれいに飾り、木の柵でかこまれた裏庭の利用のしかたは各様だが、あちこちで鶏の放し飼いをしていた。
 団地の外のバス通りの店の看板に「キオスク」Kioskの文字がやたらに目につくのは、住民にトルコ系、ギリシア系が多いのだろう。
 帰りの方角が分らなくなって近くの店の店員にたずねたが要領をえず、ちょうどそこに停車した老夫婦に聞くと、行きたいところに連れていってやるから小型だがクルマに乗れという。「世界遺産のツオルフェアアイン炭鉱のピット12」と告げると、自分は知らないが名所ならカーナビをみて行けるだろうと走り出した。地元の自分も知らないところへ外国人が一人、陽が傾きかけた時間になって行きたがっている、と同情してくれたのだろう。約20分かかった。あとで礼状を出そうと思って住所、氏名をたずねたが教えてくれず、ピット12のまえでわたしを下ろして走り去った。
 ツオルフェアアイン炭鉱Zeche Zollvereinは、1847年に第1坑で石炭採掘をはじめ、1866年にはコークス炉も建造し、やがてドイツの全鉱山の頂点に立った。第12坑は、全盛期をむかえた1920年代末にバウハウスの建築家フリッツ・シュップとマルテイン・クレマ一に設計を依頼し、30年に建設、32年から稼動した。その後鉄鋼業の衰退とともに1993年に操業を停止、州が跡地を購入して整理し、ユニークなデザインの工業建築として2001年に世界遺産に登録された。
 夕焼け空をバックに見上げるばかりに高く、2本足に支えられてそびえ立つる竪坑櫓は、たしかに美しかった。長いながいエスカレーターにのって巨大な建物に飲み込まれると、そこは、いま操業をストップしたばかりかと思わせる大工場のなか。せまい通路の両脇には大小さまざまな機械と頭上を走るベルトやレール、資材や工具類もおいてある。鉄柵だけのエレベーターも上下している。何階建てだったろう。入り口で6ユーロ支払った入場券には「ルール博物館一自然・文化・歴史」とあるから、工場見学ではなく、大博物館にちがいない。ルール地方の遺跡から現代史までうんざりするはど学ばせてくれるコーナーに、軽食堂や書店もあった。
 第12坑のボイラー室だった隣りの建物は「レッド・ドット・デザイン・ミュ-ジアム」Red Dot Design Museum。廃坑の産業遺産のなかに現代デザイン最先端の美術館。ルール再興にかける奇抜な発意に魅かれながらも、入場する体力も時間もすでになく、6時すぎ夜空にうかぶピット12を振りかえりつつ、バスでエッセン中央駅にもどった。
 後年たまたま泊まった北九州市八幡のホテルが、目前にひろがる広大なテーマパークも旧八幡製鉄所の本拠跡、所有はいまも新日鉄住金だという。しかし、この界隈どこにも「日本近代産業のあけぼの」を想いおこさせる跡は見あたらない。聞けば、線路のむこうに「世界遺産」に登録された旧本事務所と工場が残っており、一般には非公開だが、事務所は遠くから眺められる、とか。かけがえのない産業遺産を跡形もなくブルドーザーでつぶして金儲けしか考えない(遊園地はいま閉鎖)、世界遺産に登録しても公開はしない。「日本の文化と伝統」を声高に叫ぶ輩にかぎって、歴史の跡を消したがる。

[住宅団地 記憶と再生』 東信堂




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