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雑記帳2022-12-1 [代表・玲子の雑記帳]

雑記帳2022-12-1
◆この秋、小金井市にある尼寺、三光院で、美術ジャーナリスト斎藤陽一さんの3回連続講座「源氏物語絵巻を読み解く」が開かれました。既に雑記帳で初回の紹介をしましたが、今回は最終回をご紹介しましょう。

小説「源氏物語」の第40帖「御法(みのり)」で、生涯でもっとも愛した紫の上を見送った光源氏が登場するのは41帖「幻」が最後です。源氏の死ははっきりとは書かれていませんが、41帖後に世を去ったとされます。第40帖は絵巻の10枚目にあたります。

宇治十帖に先立つ第44帖「竹河」2枚は徳川美術館の所蔵。
1枚目(絵巻11)は薫が玉鬘(たまかずら)邸を訪れ、女房と歌を詠みかわす場面が描かれます。
2枚目(絵巻12)には、蔵人少将が玉鬘の姫君姉妹を垣間見る場面です。蔵人少将は夕霧の息子であり、源氏の嫡流です、面白いことに、この少将は、第37帖(絵巻では6番目)「横笛」で、夜泣きして母親の雲居雁にあやされる赤ん坊として登場しています。

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「竹皮」下は復元模写(以下同様)

姫君2人は源氏の友人頭中将と夕顔の間に生まれ、美しく成長するも、姉の大君はむくつけき黒髭大将と結婚してしまうのですが、この場面では2人は囲碁の三番勝負をしています。父親の頭中将は留守、通常なら部屋のおくに隠れて姿を見せない女性が気を緩めて縁側近くまで出てきている。夕方の暗さを和らげるために御簾を上げている。だから垣間見ることができたのです。勝負はどうやら中君が勝っているらしい。賭けるのは大君が大切に育てた桜の木。嫁ぐ姉君が妹に残してやるという意味まで、1枚の絵の中にうかがうことができます。

第45帖「橋姫」から始まる後半の10帖は『宇治十帖』と呼ばれ、ここからは、薫と匂宮が主人公の、源氏の息子世代の物語になります。絵巻は13枚目から19枚目まで、全て徳川美術館の所蔵です。

絵巻13枚目には、宇治八宮邸で、薫が姫君姉妹を垣間見る場面が描かれています。
八宮は源氏の異母弟ですが、政争に敗れて宇治に隠遁、2人の姫君と共にひっそりと暮らしていました。
薫はまだ自分の本当の素性を知りません。

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「橋姫」原画

晩秋の月明りの下、姫君は縁側近くに出て、筝と琵琶を演奏しています。
画面の右上には「すやり霞(がすみ)」が描かれています。すやり霞は薫の気持ちを現すものとして、何度も登場します。                          
描かれた簀子(すのこ)、透垣(すいがき)はつましい暮らしを表す一方、姉妹の小袿(こうちぎ)姿は上級貴族の日常着です。くらしはつましくても娘には不自由はさせまいとする八宮の気概を感じます。
また、ここに登場する楽器は二人の性格をあらわし、思慮深い大君は筝を、明るく大らかな中君は琵琶を演奏しています。

復元模写を担当した宮崎さんは、すやり霞に銀と青が使われていることに気づきました。銀を主体にした画面は、霧がたちこめた幻のような世界を表現するものでした。

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「橋姫」の復元模写

14枚目は第48帖の「早蕨(さわらび)」。京の匂宮邸に移る中君が弁の尼と別れを惜しむ場面です。

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「早蕨」

第49帖「宿木」は、絵巻は3枚描かれました。
先ず絵巻15には碁を打つ帝と薫が描かれます。
帝は負けて薫に賭けものを取らせることになり、娘の女二宮を薫に託すことをほのめかすのです。画面には聞き耳を立てる女房たちも描かれています。

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「宿木一」

物語の舞台は清涼殿、朝餉(あさがれい)の間です。絵巻の中で、唯一、御所が描かれた場面です。復元した加藤順子さんによると、乱れ箱や副障子、几帳、襖、畳など家具や調度品が細かく描かれていて、当時の御所の詳細を知る貴重な資料にもなっているということです。
聞き耳をたてる女房たちは他の場面にも何度も登場し、主人公を引き立てる役割をしています。作者の紫式部本人も実は、語り手として、女房に重ねられているのです。

いったんは「世のつねの垣根に匂ふ花ならば心のままに折りて見ましを」と詠んで、薫は帝の申し出を断ります。が、結局、彼女を妻にします。

「宿木(やどりぎ)」では、匂宮が夕霧の娘、六君(ろくのきみ)と結婚します。匂宮は中君をに二条院にむかえいれていますが、正妻は六の君になります。「宿木」は2枚描かれ、絵巻16枚目は、愛人もいて期待もしていなかったのに、4日目にようやく妻の顔をみて美しさに魅了される匂宮が描かれます。
悲しい場面に聞き耳をたてることの多い女房たちも、この時ばかりはウキウキとしている様子、喜びを表す暖色系の色が多用されて、絵巻の中でも一番華やかな図です。源氏絵巻はまさに絢爛たる王朝絵巻なのです。

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「宿木二」

17枚目は、匂宮が琵琶を弾いて身重の中君を慰める場面です。
画面の半分は秋草が占めています。「秋ほつる野辺のけしきも篠すすきほのめく風につけてこそ知れ」の世界を、絵師が秋草で表現しているのです。フジバカマ、萩、芒の秋の七草が順に重ね描きされています。秋草は中君の心情を現しています。

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「宿木三」原画
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復元された秋草

第50帖「東屋」は2枚あり、18枚目は中君が腹違いの妹、浮舟を慰める場面です。背景になる風景もしっかりと描かれ、平安時代の絵画が殆ど失われている現在では貴重な資料です。

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「東屋一」

19枚目は薫が三条の古家に浮舟を訪ねる場面。弁の尼が浮舟を説得している間、薫は許可が出るのを待っています。弁の尼は他の場面にも登場する重要人物です。「橋姫」ではまだ自分の素性を知らなかった薫に出生の秘密を打ち明けたのは弁の尼です。
遣戸(やりど)、透垣(すいがき)、簀子(すのこ)などにつましいくらしぶりがうかがえます。ここにも秋草が描かれています。

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「東屋二」の原画
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復元された「東屋二」の左半分

翌朝、薫は浮舟を宇治に戻します。

現存する絵巻はここまでです。
各章にそれぞれ複数の絵が描かれたことを考えると、おそらく全体では150枚を超える絵巻があったのではないでしょうか
復元された模写を見て、私たちはその鮮やかな色彩に目を奪われました。深い庇や御簾にも隔たれた宮殿の奥深く、昼間でさえ手元ほのぐらい明かりの下で、女房達が親しんだ絵がこれほどに明るいのはむべなるかなと思われました。
「源氏物語」を書いた紫式部を見出したのは藤原道長です。藤原家の嫡流ではなかった道長が覇権を狙って娘の彰子を一条天皇に嫁がせたとき、同時に作ったのは紫式部や和泉式部らの集まるサロンでした。政争に加担すると知ってか知らでか、華麗な宮中サロンは見事に花開き、その後藤原一族の栄華も長く続きました。
源氏物語が生まれてから100年たって絵巻がうまれた、絵師たちは原作を深く読み込み、何枚かは女性の絵師が手がけたと思われる、そんなことにもまるで大きな物語をみるようではありませんか。

最近、第5帖の「若紫」の絵巻が発見されました。
残念なことに、室町時代に上塗りされたため、国宝にはならなかったということです。

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「若紫」

講座を終えた講師の斉藤さんは、こんな句を詠んでしめくくりました。
  「絵巻講座 終えてみ寺の 秋惜しむ」
萩の季節に始まった講座は、紅葉の時期に終了となりました。

◆三光院の精進料理は月替わりです。霜月は献立に「吹き寄せ」がありました。

牛蒡を松葉に見立て、銀杏、栗、麩などで色鮮やかに、三光院境内の晩秋の風情を一皿に盛り込ん一品です。 菊月の献立にあった「さといものふり柚子」は写真を撮り忘れたのが残念で、今回はわすれずに撮りました。

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お煮しめ
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吹き寄せ


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三光院 西井香春先生を応援する会

 冠省 三光院サロンのご紹介、ありがとうございます。 斎藤陽一先生の講義はその後も好評で、来年は年間を通したシリーズ講座の開催が決定しております。
 その名も「京都ルネサンス 若冲、蕪村、応挙の絵画世界を味わう」です。 国宝四大絵巻シリーズも残り一回が来月に開催されます。
by 三光院 西井香春先生を応援する会 (2023-10-16 16:49) 

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