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こふみ会・句会物語 №112 [文芸美術の森]

こふみ会・句会ものがたり  
行くも良い良い、行かぬも良い良い……コロナ禍による在宅句会その27 
「胡桃」「月」「濁り酒」「相棒」  

                俳句・こふみ会同人・コピーライター  多比羅 孝

幹事の下戸氏から、≪令和4年9月の句会≫の案内状が送られました。

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こふみ句会の皆さま

天高く、気持ちのいい朝でしたね。
皆さん、お元気でお過ごしのことと存じます。
今日から10月です。
10月の「こあみ句会」、幹事は、下戸がすすめてまいります。
よろしくお願いいたします。
では、兼題です。

1)胡桃
2)月
3)濁り酒
4)相棒
※4は無季の兼題としました。各自、季語を入れてください。

●投句は10月10日(月・祭日)~13日(木)のあいだにお願いいたします。
●投句先は、下戸まで、お願いいたします。

●選句は10月21、22、23日にお願いします。

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【上載の通知によって作成・作句された今回の全作品】は下記のとおり。15名 60句

【胡桃】
くるみとミルク おや回文だ 笑いけり(孝多)
胡桃割る娘は更のトーシューズ(尚哉)
草笛の名前ゆかしきくるみ蕎麦(玲滴)
胡桃割る今宵の友はコルトレーン(一遅)
モチーフは 篭からこぼれた胡桃の実(紅螺)
兄弟や暫し休戦くるみ餅(下戸)
父の掌(て)に胡桃ころがす音いまも(弥生) 
胡桃割るアジアの果てで橋落ちる(矢太)  
胡桃来る天山南路の向こうから(鬼禿)  
胡桃割る庭に代々ある石で(すかんぽ)  
山神の落とし忘るる胡桃かな(なつめ) 
胡桃と脳の相似性にイグノーベル(孑孑) 
胡桃割る灯下外科医の手となりて(虚視) 
屋根に落つ胡桃の音は山のドレミ(茘子) 
今日もまた何処にも行けず胡桃割る(兎子) 

【月】
盃に月を映して旨き酒(紅螺)  
おお月か狼はベランダをソッと締め(一遅) 
はんなりとうつむいており十三夜(鬼禿) 
道化師や一人月下のヴァイオリン(虚視) 
母逝きぬ月冴え冴えと静寂悲しも(玲滴) 
何処までもついて来る月遠き日の月(弥生)
終電で帰す帰さぬ月高し(尚哉) 
あの三日月 昨日私が 切った爪(つめ)(孝多) 
月食べる数億人が視聴中(下戸)
お月様若田の叔父様よろしくね(孑孑)
泣いても笑っても月は真上(茘子) 
欠けし月取り戻すべし雷走る(矢太)  
緋の色の月コロッセオに昇る(すかんぽ)  
見上げれば見上げた人の数の月(なつめ) 
月儚き高層ビルに追いやられ(兎子)  

【濁り酒】  
どぶろくを呑み干すような胡座かき(なつめ)
みぎひだりたてよこななめ濁り酒(虚視) 
濁り酒今夜もあの頃を連れて来る(一遅) 
世が世なら武士のはしくれ濁り酒(すかんぽ)  
酔へばまたああ玉杯や濁り酒(弥生) 
若干の 悔いを残して 濁り酒(紅螺) 
濁りたる明日覗きつつ濁り酒(矢太) 
山伏を真似て濁り干し一唸り(孑孑) 
独りとは止まった時と濁り酒(鬼禿) 
丁と半どっちつかずの濁り酒(下戸) 
ちゃん付けで 呼ばれて騒いで 濁り酒(孝多) 
北の旅誰と飲んだか濁り酒(兎子)  
濁り酒濁りて内に燠(おき)たまる(尚哉)  
渦をまく川べりの宿濁り酒(玲滴) 
濁り酒酌めば夜汽車のベルが鳴る(茘子) 

【相棒】
相棒とダイヤ婚となり秋刀魚分け(孑孑) 
ひとり居の相棒は猫秋深し(玲滴)  
相棒の 軽い寝息や 燗の酒(孝多) 
相棒とイケメン狩るや文化祭(下戸) 
相棒に 縁なき日々も 秋日和(紅螺) 
伴侶より相棒でいくか夫婦月(尚哉))
相棒はハモニカ巴里へ秋一路(すかんぽ)   
相棒と肩ですすりて走り蕎麦(なつめ)  
相棒か仔猫とあそぶ秋の蝶(一)遅)
相棒と呼ぶ人も無く松茸を焼く(兎子)  
相棒が泥棒と化し秋キーウ(矢太) 
相棒も私も枯れ葉風を待つ(茘子) 
相棒と眼と眼で別れる秋の暮(鬼禿) 
君が居て僕が居た日や秋の雲(虚視) 
相棒と拾ふ銀杏きりもなや(弥生) 

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【天句の鑑賞】
「天」に選んだ句とそれに関する鑑賞短文を簡潔に書くというこふみ句会の約束事。

●あの三日月 昨日私が 切った瓜(つめ)(孝多)
宇宙の一部である三日月を、我が一身の一部、小さき爪に擬えた。肉迫の抒情に撃たれました。(矢太)

●若干の 悔いを残して 濁り酒(紅螺)
後悔の苦さと、ままならぬ思いが、澱のように濁っていく、その心根に共感します。(兎子)

●相棒も私も枯れ葉風を待つ(茘子)
「風を待つ」がなんとも切なく、人生の悲哀を深く感じます。(すかんぽ)

●濁りたる明日覗きつつ濁り酒(矢太)
暗澹たる思いを敢えて濁り酒で流す。同時に明日こそは澄み切った一日であることを願うせつない想いに共感しました。’なつめ)

●何処までもついて来る月遠き日の月 (弥生)
はじめはデートの月か、夜のハイウエイの月かなどなどと思いました。が、下句に及んで字余りの響きで昔日の月であることが伝わってきました。巧みでありますね。(孑孑)

●緋の色の月コロッセオに昇る(すかんぽ)
コロッセオに昇る緋の月、何て絵画的で文学的。まるで悲劇のプロローグのようです。(弥生)

●相棒はハモニカ巴里へ秋一路(すかんぽ)
ハモニカを連れてパリへ行くのだ。ハモニカは、いい相棒になる。セーヌ川を見おろすホテルの窓ぎわに立ってシャンソンの「枯葉」でも吹き流そうか。この秋、心は、もうパリへ飛んでいる、というわけでしょうか。共感をおぼえます。良句をお示し頂いて有難うございました。(孝多)

●道化師や一人月下のヴァイオリン(虚視)
この句で、堀口大学の「月光とピエロ」を思い出す人は今、どれくらいいるのだろうか。古典になっていた合唱曲を歌っていたころ、まさに青春だった・・・そんなことを思いだせてくれる句でした。(玲滴)

●あの三日月 昨日私が 切った爪(つめ)(孝多)             
近くと遠くの対比が絶妙です。ユーミンの「colvet1954」を思い出しました。(尚哉)

●見上げれば見上げた人の数の月(なつめ)
素敵な視点、そうなんです。素晴らしい真理を言い得ています。それぞれの人にそれぞれの月です。感服。(茘子)

●ちゃん付けで 呼ばれて騒いで 濁り酒(孝多)
幼なじみと楽しいお酒。。。いいですね!(紅螺)
ちゃん付けのリアリティに共感。天真爛漫、陽気にはしゃぐ姿がこの上なく愛おしく。そして落ちの「濁り酒」、この落差がなんとも大人の奥ゆきかと感嘆しました。(下戸)

●相棒の軽い寝息や燗の酒(孝多)
さっきまでは一緒に呑んでいたのだろう。寝顔を見ながらまだ一人で呑んでいる。しみじみとするなぁ。(虚視)

●緋の色の月コロッセオに昇る(すかんぽ) 
遺跡の石舞台を照らす緋い月。ローマでしょうか、タオルミーナでしょうか。このジェットストリームのような「設定」に天。(鬼禿)

●相棒と肩ですすりて走り蕎麦(なつめ)
たぐって、すすって喰うのが江戸っ子の流儀。一緒に楽しめる相棒がいてこそ盛り上がる、新蕎麦の季節ですね。(一遅)

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≪今月の総合の天地人≫

総合天:なつめさん 64点
      代表句=山神の落とし忘るる胡桃かな
総合地:孝多さん 46点
      代表句=ちゃん付けで 呼ばれて騒いで 濁り酒
総合人:弥生さん 26点
      代表句=何処までもついて来る月遠き日の月
総合人:すかんぽさん 26点
      代表句=緋の色の月コロッセオに昇る

以上、10月の結果はなつめさんの作品が天句と人句に輝きました。孝多さんが地句、さらに次点にも名を連ね、お二人が上位を独占する形となりました。

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≪幹事より、ひと言≫

・・・幹事さんの負担は大きいのではないでしょうか、というご心配のメールをいただきまいた・・・けれど、幹事は楽しんでやっています。みなさんの俳句を見つめ、俳句ができた過程を1つずつ想像するのはとても面白い体験です。それから今回もいくつか記載ミスがありましたが、これはこれで刺激があっていいものです。みんなミスもするし素敵な俳句も書きます。だから句会は楽しいのではないでしょうか。

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≪孝多より、ひと言≫

上5・中7・下5の間にアキを入れる、なんてこと、しません。
そんなことをしたら、これは、誰それの句、と、すぐにばれてしまいますから。
と、話してくれたのは札幌在住の後輩K君でした。
ほう、そんなものかと、私・孝多は思ったあと、少し心配になってきました。
そういう考えでやっていたら句会が運動競技の場のようになってしまいはせぬか。
いやいや、他をいう前に、自らの足元を見よ、です。
東京のT氏たちの句会も、運動競技の場に近づきつつあるのでしたら、要注意!
大切なのは誰がどうこうにとらわれず、入れたい人は思いのままにアキを入れるし、普通に、一本棒に書きたい人はアキ無しに書くのがよろしいでしょう。
どっちがどっちに、と、きめつけずに、です。
こうしたこと、孝多の心配しすぎならいいのですけれど。

                    令和4年10月末日  多比羅 孝多



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