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日めくり汀女俳句 №108 [ことだま五七五]

十二月八日~十二月十日

     俳句  中村汀女・文  中村一枝   

十二月八日
一言はうしろの連れに落葉遺
        『薔薇粧ふ』 落葉=冬

 以前、近くに小さい国の大使館があって、五十前後の大使夫妻が連れ立って歩いてい
た。スペイン系のハンサムな大便とすらりとした夫人、さりげなく手を組み、談笑する姿
がさまになっていた。戦後五十年余、日本ではかっこいい二人連れにはなかなかお目にか
からない。老いも若きもそれは同じ。長い文化の所産なのか、国民性なのか。電車の中で
その醜い振舞に顰蹙(ひんしゅく)を買うカップル、人前で仲良くしてもいい。でも美しくやってくれ。男女の文化が、日本ではまだまだ寄り添えないのかもしれない。

十二月九日
町裏や冬日はひそと中二階
         『都鳥』 冬日=冬

 今時分の布団の中の温もりほど、気持ちのいいものはない。学校に行くのがいやになる
子供の気持ち、端緒はその辺りだったりして。子供の頃、登校拒否にこそならなかったが、学校は嫌いだった。病気勝ちで年中休んでいたせいもある。一人っ子でわがままな性格、集団生活になじみにくかった。高校の時も途中でやめたくなった。田舎の中学から都会の高校へ、自分の存在感が薄くなったのだ。学校をやめたいと父に言うと、いとも簡単に「それならやめろ、行かなくていい」 と言った。勢い込んでいただけに、がっくり。

十二月十日
夜にまざるつややかなりしミンクかな
         『薔薇粧ふ』 毛皮=冬
 ミンクの毛皮など持つ気もないし、持ってもいない。以前、テレビのドキュメントでミ
ンクの捕獲風景を見て、金輪際ほしくないと思った。ただ、手ざわりのよさには今でも心
をそそられる。汀女はミンクストールの様な物を人から貰ったと言っていたが、やはり外
出時には、ウールのショールを身に着けていた。汀女にミンクのストールは、何となく似
合わない。
 汀女の死後、毛糸のショールが二枚、私の手許にある。どちらも、汀女がふだん愛用し
ていた覚えがある。藍色とグレイの混ぜ織の一つは私の大好きな物、地味だけど気品のあ
る色使いが、汀女によく似合っていた。


【日めくり汀女俳句』 邑書林


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