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西洋美術研究者が語る「日本美術は面白い」 №91 [文芸美術の森]

       ≪鈴木晴信≪機知と抒情と夢の錦絵)≫シリーズ
           美術ジャーナリスト  斎藤陽一

          第5
回 雪中相合傘

91-1.jpg

≪雪の道行き≫

 今回も、鈴木春信らしい、情緒ある錦絵を紹介します。 

 上図は、春信が明和4年頃に描いた「雪中相合傘」(せっちゅうあいあいがさ)。春信描く「恋の図」の中でも、最高傑作と言われる錦絵です。

 しんしんと雪が降り積もる中、若い男女が、ひとつの傘を手に身を寄せ合いながら、ゆっくりと歩んでいく。雪の中の道行きです。

91-2.jpg 男は女をじっと見つめ、何かを語りかけている。女は恥ずかし気に男を見ています。
 傘の上には雪が降り積もり、傘の重みが少し増しているのでしょう。
 傘の柄には、二人の手が添えられ、寄り添う気持ちが表現されています。 

 ふっくらと表わされた雪には、「きめ出し」という技法が使われ、女の白い衣装には、「空摺」(からずり)という技法が使われています。(下図参照)
91-3.jpg 「空摺」(からずり)というのは、版木に、模様を凸面にして彫り出し、その面には絵具をつけずに強く摺ると、紙には、彫り跡どおりに凹凸が浮かび出る、という技法です。

 「きめ出し」というのは、「空摺」(からずり)の一種で、摺師が、馬連ではなく自分の肘などを使って強い圧力をかけて摺る技法です。
 どちらも、彫師と摺師の高度な技が必要とされますが、鈴木春信は、その技を最大限に引き出した絵師でした。 

 一面の白い雪景色の中で、二人の着ている衣装も「黒と白」という、シンプルにして、かつ、鮮やかなコントラスト。そこに、わずかに配された赤や黄色が効果的です。あえて華やかな色彩を避けた配色が、奥ゆかしく、品の良い情感を醸し出しています。

 雪が降りしきる中、二人はどこへいくのでしょうか?
 いかにも春信らしい、夢の中のシーンのような、甘美な恋の道行図ですね。

 次回は、鈴木春信描く、少年少女の人目をしのんだ逢引の絵を紹介します。
(次号に続く)


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