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日めくり汀女俳句 №106 [ことだま五七五]

十二月二日~十二月四日

   俳句  中村汀女・文  中村一枝

十二月五日
落つ雨にすぐ掃(は)きやめぬ石蕗の庭
          『春雪』 石蕗の花=冬

 南の島へ新天地を求めて移住していった友人からエアメールがきた。ミクロネシア連邦の中のボナペ島。連邦の中には、かつて日本の統治下にあったトラック、サイパンなどおなじみの島々。地理音痴の私にも様子がわかる。かつては日本統治下の島として、戦争中は民間人の玉砕という痛ましい思い出で覚えている。ボナペ島はその中で被害のない島だった。アメリカの信託統治と豊かな環境で、住人はあまり働かなくてもすむそうだ。地震、台風、火山、殺人事件も無縁の、平和そのものの島は、日本からみると夢の島らしい。

十二月六日
子等のものからりと乾き草枯るる
          『汀女句集』 枯れ=冬

 先月二十九日付夕刊文化の、「こんな物があった」に載っていたカルイ(背負い子)の話を読んで懐かしかった。昭和十九年、東京から伊東へ疎開した。小学高学年は勤労奉仕の薪運びや、ススキ刈りに狩りだされた。その時背負い子は必需品だった。
 隣の大家のお爺さんは耳の遠い厳格な人で、ほとんど口をきかない。その人が一晩かかって私のために背負い子を作ってくれた。肩のところに赤い布が編み込まれている小ぶりのものだった。その時のうれしさ、一晩中枕元において寝たことを思い出す。

十二月七日
落葉風掃きとどむにはあらねども
          『汀女句集』 落葉=久

 落ち葉を踏むと、ふと安らぎを覚える。どこを歩いても落ち葉にあたる。かさこそと「たあの音がいい。風の後、雨の後はひとしお。誰が命名したのか滞れ落ち葉、定年後、妻にまといつく哀れな男たちを言うらしいが、濡れ落ち葉の風情まで思い至ったかどうか。
 近年落ち葉が嫌われる。そのせいで樹齢の高い古木が次々に切られる。「隣の落ち葉が庭を汚す」「前の桜の葉が道に広がる」そういう苦情が増えているらしい。ゆっくりと落ち葉の余情を楽しむゆとりは、人の心から消え失せたのか。

『日めくり汀女俳句』 邑書林



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