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検証 公団居住60年 №119 [雑木林の四季]

 XⅦ どこへ行く住宅政策一公団住宅居住者の生活と要求
 
   国立市富士見台団地自治会長  多和田栄治

1.「新たな」住宅セーフティネット ― 末路をみせる住宅政策

 小泉政権は、公営住宅を基幹とする公団住宅、住宅金融公庫の3本柱体制を壊すことから住宅政策の「構造改革」をはじめた。政策理念の基本を「公的主体による直接供給」から「市場における自力確保」におきかえ、自力で確保できない住宅困窮者にたいしては、公共賃貸住宅制度を見直して「住宅セーフティネット機能の向上」をはかるという構図に転換してきた。
 公営住宅法は憲法25条にもとづき住宅の公的直接供給を国および地方自治体にたいし義務づけている。第1条でその対象と施策を「住宅に困窮する低額所得者にたいし低廉な家賃で賃貸する」と明確にしたうえで、第3条で地方自治体は「公営住宅の供給を行わなければならない」、第4条で国は地方にたいし「援助を与えなければならない」と規定している。
 公共賃貸住宅制度の見直しとは、第一に公営住宅法を骨抜きにすることであった。いくども法改悪をかさねた末に、公営住宅を公団住宅等とならべて「住宅セーフティネット」の一つと位置づけ直し、その供給を国の義務から「配慮」の対象に変えた。いまや公営住宅法を「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」にすりかえ、政府はこの法律をもっぱら「住宅セーフティネット法」の名で呼んでいる。そのねらいと問題点についてはすでに述べた。
 住宅セーフティネット法が制定されて10年になる。この法の正体は、10年後の現実がいっそう明確に明かしている。社会資本整備審議会住宅宅地分科会は住宅セーフティネットをめぐる現状と課題、施策の方向性を検討し、2017年2月に「新たな住宅セーフティネット」制度のあり方について報告書をだした。この報告にもとづいて同法の一部改正案が2月3日閣議決定された。
 報告書、改正案の主旨は、公共賃貸住宅への要求をはじめ住宅セーフティネット機能強化の必要性が高まっている現状を認めながらも、公営住宅の「供給は進んでいない」「増加は見込めない」から、今後は、増加しつつある「民間の空き家・空き室の活用を促進していく」方向に転換しようというのである。
 「新たな」とは、住宅セーフティネットをも「公から民まかせへ」転じることを意味している。公共賃貸住宅の役割を規定した第5条は法改正で第53条に退き、民間空き家等の活用にかんする新たな条項が法の大部を占めるにいたった。
 新たな施策には、住宅確保要配慮者の入居を拒まない民間空き家の登録制度の創設、居住支援法人(NPO)による入居相談、家賃債務保証の円滑化、生活保護受給者の住宅扶助費の代理納付推進等をあげている。登録住宅の改修・家賃低廉化への支援は、国・地方が予算上配慮するとして法律上は規定していない。改正案のどこにも、住宅セーフティネット機能の確かな強化を予想させる条項はなく、最低限度の居住さえ事実上保障しようとしない政府の姿勢がいっそう明白になるばかりである。住宅扶助の代理納付を推進する
一方で、報告書が「貧困ビジネスにつながることのないよう留意すること」と記しているのが注目された。
 「新たな住宅セーフティネット」をめぐる政府の検討と法改正にいたる国会審議をつうじて確認された次の点は、公共住宅政策を取りもどし、拡充させる運動にとって重大な課題である。
 ①公営住宅法は、国民にたいする住宅政策の根幹である。②借家をもとめ、家賃支払いが困難となる世帯は増えつづける。③大都市圏では公営住宅への応募倍率は高い(東京都22.8倍)が、今後とも大幅な増加は見込めない。④住宅セーフティネット機能の強化は緊要である。
 これまで述べてきたように、公団住宅にたいし、政府・機構は高家賃政策を強めるとともに、団地の削減・売却を進めている。居住者の70%以上が住みなれた団地永住を望みながらも、年金生活者が過半を占め、家賃負担は耐えがたくなっている。高家賃ゆえに空き家は目立っており、空き家率は全国で10%を超え、20~30%の団地も珍しくない。
 公営住宅、公団賃貸住宅はそれぞれ発足にあたっての制度上の違いはあっても、入居階層の収入実態は当初から共通する部分がかなりあったはずである。制度が発足して60年余をへて入居者の実態はますます一元化にむかっている。収入階層別に3本柱の住宅制度を立てながら、居住者実態の変化にこたえる政策をとってこなかった。公団住宅のばあい、都市機構は居住者の実態を十分に知りながら一律に市場家賃制にかえ、そればかりか機構法25条4項が規定する「家賃の減免」条項は履行せず、低所得者から高家賃を取り立てているのが現状である。また両住宅とも・一元的に住宅セーフティネットとして大いに活用すべきところ、公営住宅の新規供給はストップ、公団住宅は削減、民間売却の方針を固め、「民間空き家の活用」に打開の道を求めるという。民間事業活性化が狙いとしてもお粗末である。
 住宅セーフティネット法改正をめぐる政府の説明と国会審議、公団住宅の現状をふまえ、公団自治協はつぎの要求をかかげて活動をしている。①国民共有の資産である公団住宅を公営住宅として活用し、家賃を引き下げて空き家をなくせ。②公団住宅の削減・売却には反対である0③機構法25条4項の「家賃の減免」条項の実施とともに、公営住宅収入層には公営住宅家賃を適用せよ。④広く公営住宅法の趣旨に沿い、住宅扶助’家賃補助制度を設けよ。

『検証 公団居住60年』 東信堂



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