SSブログ

地球千鳥足Ⅱ №8 [雑木林の四季]

フィヨルドに映える美青年
   ~ノルウェー王国~

     小川地球村塾塾長  小川彩子

 私たち夫婦は今、ノルウェーのフィヨルドに近いある瀟洒な別荘に来ている。ベネズエラのカナイマからエンジェルの滝行きを共にしたマーティンに招待されたのだ。マーティンは20代の若い医者で、フィアンセがいる。この別荘には屋根の上に大きなベンチが乗っかっていて、そのベンチからフィヨルドや彼の家族のボートまで眺められる。別荘に着いた夜、彼はプローンという海老を大量に茄でて海老サンドを作り、手作りクッキーを添え、暖炉の前に甘い香りのキャンドルを置き、私たちをもてなした。自分が作ったグループ演奏のCDも聴かせてくれた。年齢差など度外視した優しい招待だった。「おいでよ!」「行きます!」で瞬く間に実現したノルウェーの幻想的な夜であった。
 マーティンの家のボートでフィヨルドに魚釣りにも行った。「僕はフィヨルドで育てられたんだよ」。「子どもの頃あの小さな岩に置いていかれたんだ。心身を鍛えるために。初めての時はお父さんが去っていくのが死ぬほど怖くて泣いたんだ。だんだん強くなって、フィヨルドで泳いだり、岩の上で本を読んだり、いっぱい思索もしたんだ。あの岩だよー」。
 フィヨルドで育った男、マーティンは釣りの穴場を知っていた。夫の収穫は10匹で、30センチ以上の大きさ、だが私には釣りは簡単ではなかった。午後中一匹も食いつかず、ほとんど諦めかけたその時、恐ろしい力でリールが引っ張られた。やっと釣り上げたその魚は60センチもあった。その日最大の収穫、そして我が人生初の海釣りの獲物だった。ぐいぐい引いたあの魚の強い手応えとお目見えは生涯忘れえないだろう。たった一匹、でも船底でピンピン跳ね、青い鱗をキラキラ光らせるその魚の姿は本当に美しかった。
 マーティンが収穫した魚の内臓を取り出し水に拙ると、突然海かもめの群れがボートを囲み、予期せぬご馳走をギヤオギヤオと奪い合い大変な騒ぎだった。海かもめたちの賑やかな夕食が終わればボートの上はまたマーティンと私たちだけ。辺りには船の影もない。あるのは美しい夕日に映えるマーティンの涼しい笑顔。北欧のフィヨルドの豪華な静けさ。
 釣った魚は鱈がほとんどだったが青い魚もあり、三枚に下ろして刺身にして食べた。若い二人も刺身を食べた。マーティンのフィアンセは日本食が好きだと言ったが、別荘なのに醤油が準備されていたのには驚いた。釣った魚は食べきれず、マーティンのすすめによりアメリカの自宅まで持ち帰った。空路も解凍されていず、北欧の美魚、美味、友情をシンシナティの自宅で客と分け合った。年齢に無関係に友情を発揮する爽やかなノルウェーの若者に胸を温められた、学ぶことの多いご招待だった。(旅の期間‥2008年 彩子)

『地球千鳥足』 幻冬舎


nice!(1)  コメント(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。