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日めくり汀女俳句 №104 [ことだま五七五]

十一月ニ十九日~十二月一日

   俳句  中村汀女・文  中村一枝

十一月二十九日
残菊の風避くべくもなかりけり
        『都鳥』 残菊=冬

 安売り競争が、衣料品を中心に活況を呈している。私の住む街にも安さと色感の豊かさで知られる衣料品メーカーが店を出し、土日には行列ができる。私もつられてその店の定番物のフリースのジャケットを買った。暖かくて軽くて朝夕愛用している。
 犬の散歩をしていると、すれ違った自転車の女性、色は違うが同じフリース。思わず「あっ一九〇〇円のだ」。相手も照れくさそうだ。一日に三人も四人も同じフリースに出会う。そのたびに妙な親近感と、半分身をかくしたいような。相手もきっと同じなのだ。

十一月三十日
行く方を何か忘れぬ末枯るる
        『花影』 末枯=冬

 大学の友人から、卒後四十五年のカミングデイの写真を送ってきた。当日私は欠席したため。昨日の紅顔明日の白髪、皆老いたと思うが、学生時代の友達っていいな。
 私は最近の早稲田は嫌いだ。偏差値の高い大学になった時から早稲田は滅びたと思う。
私が入学したころも昔の面影は消えていたが、それでもまだ学生にも在野精神が旺盛だった。学園は格段ときれいになり、大隈庭国わきには酒落たホテルも建つ。学校にも経営は必要だろうが、今、早稲田には、校歌の中に歌われている精神の一かけらもない、気がする。

十二月一口
霜白し己れひそかに制すもの
        『薔薇粧ふ』 霜=冬

 汀女五十歳のときタクシーの運転手に降りぎわ、「おばあさん気をつけて行きなさい」と言われがっかりした、と言う随筆がある。今から五十年前にしてもショックだったろう。今、うっかり女性をつかまえて「おばあさん」と言ったら、かみつかれるかも知れないが、ひと昔前には考えられなかったおばあさんの若返りで、下は四十から上は八十を出てもおばさんと呼ぶ方がさし障りない。今やおばさん世代の広汎な広がりで、ちまたにお
ばさん現象、おばさん文化があふれている。ただし高邁さには縁遠いのがみそ。

『日めくり汀女俳句』 邑書林



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