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検証 公団居住60年 №118 [雑木林の四季]

第5部 存亡の岐路に立つ公団住宅

   国立市富士見台団地自治会長  多和田栄治

3)家賃改定ルールの変更を強行

  閣議決定は都市機構にたいし、募集家賃は2014年から空き家状況により上げ下げを柔軟におこない、継続家賃は値上げ幅の拡大、改定周期の短縮などにむけ改定ルールを2015年度中に見直すよう指示した。あわせて、低所得の高齢者等にたいする家賃値上げ抑制措置の公費実施、つまり機構負担の縮小・廃止の検討を求めた。
 機構法25条は、募集家賃は近傍同種家賃(市場家賃)と「均衡を失しない」、継続家賃はそれを「上回らない」と定めているが、今回のルール変更で、この規定に反し新旧(募集・継続)逆転も起こりうる。25条4項は、規定の家賃支払いが困難な者にたいする「家賃の減免」を定めているが、機構はまったく遵守していない。
 機構は、募集家賃を市場家賃と同水準に設定することを「硬直的」ときめつけ、継続家賃については「下がりやすく、上げにくい仕組み」だといい、「将来のインフレリスクに対応する」ためにも改定ルールを見直すると説明している。機構が継続家賃を「上げにくい」のは仕組みのせいではなく、市場家賃が1990年代から下がりつづけているのに反し、その間くりかえし値上げによってすでに市場家賃の水準に達しているからである。2017年4月現在、継続家賃の全国平均は募集家賃(=市場家賃)100にたいし97.7、その差は額面で2.3%でしかなく、璧・ふすま等の劣化放置を考えあわせると新規の募集家賃より割高ともいえ、近年の空き家の増加はその何よりの証拠である。「市場家賃との承離」はいまや値上げのための「作り話」でしかない。
 機構の家賃値上げのまえには市場家賃の壁が立ちはだかり、改定周期を3年ごとから2年ごとに速め、市場家賃との「承離」を縮めるといっても、実効ある収入増は見込めないどころか、値上げをすれば退去者が増え、空き家はさらに増加する。それほどまでに機構の高家賃化は限界にきている。
 そこで飛びついたのがアベノミクスである。安倍内閣はデフレ脱却、毎年2%の物価上昇を目標にかかげている。インフレになれば家賃値上げができ、土地建物の資産価値が上がり、負債返済の負担は軽くなるから、機構はインフレ大歓迎の立場にある。それがさも現実になるかのような前提で家賃値上げ計画とその改定ルールの再検討をはじめた。
 市場家賃は下落傾向がつづき、近年横ばいとしても、とても毎年2%上昇など兆しも見られないのに、年5%上昇したら、かりに年2.5%でも現行ルールのままでは市場家賃との乗雛はこんなに拡大する、だから承離が広がらない改定ルールづくりを急ぐべきだと、シミュレーションを図解して機構は国会へ説明に回っている0市場家賃10万円が年5%上昇すれば、5年間で約12・8万円に、年2・5%なら10年間に約12.8万円になる。現行ルールのままだと5年目には月2~0・9万円もの禾雛が生じると、「作り話」についで、こんどは「だまし絵」をもちだしてきた。
 機構が現行ルールは「インフレリスクに脆弱」、「急激な家賃水準の上昇局面に対応できるルール」という、その正体はこれである。アベノミクスが言いたてるインフレ進行の「(非)現実性」をいささかも検証することなく、これに直ちに悪乗りしてさらなる家賃値上げをたくらむ。低所得者の高齢者が居住者の大半をしめ、高家賃ゆえに空き家が増大、空き家が2~3割の団地も珍しくない現状で、閣議決定を錦の御旗に家賃のさらなる値上げをはかるルールに変更する。
 第2次安倍内閣になっての特徴は、内閣が独立行政法人である都市機構の具体的な方針、施策にまで直接介入し、期限を切ってその「改革」実施を迫ってきたことである。機構はもっぱら「閣議決定」を理由に問答無用とばかりにこれを強行してきた0全国自治協は、国会要請行動、地元議会・首長への協力要請(政府・機構へ意見書、要望書提出)、各団地自治会、居住者個人から機構への意見集中をおこなった02015年12月にはいり国会各党からも国交大臣あてに要請がおこなわれた。こうして12月24日に機構は見直し後の「継続家賃改定ルール」を発表、2016年4月1日から順次実施することとした。
 改定ルール変更の主な点は、①算定基準とする家賃変動率を、総務省統計局の家賃指数(消費者物価指数)から、機構委託の不動産鑑定業者が査定する近傍同種家賃の変動率に変える。②改定を、3年ごとのいっせい改定から、最短2年ごと各戸の契約更新日改定に変える、等であった。③低所得高齢者世帯等への特別措置改廃案は取り下げ、現行どおりとした。
 家賃改定ルールの変更が、居住者の居住の安定をいっそう危うくすることは明白である0居住者をばらばらにして借家人の権利を弱め、機構の家賃値上げを公共の監視から逃れて暗闇に閉ざし、自治会の反対運動を抑えこみ、値上げをしやすくするのがねらいである。
 居住者の居住はもとより、公共住宅として役割と命運も大きな岐路に立たされている。

『検証 公団居住60年』 東信堂



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