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日めくり汀女俳句 №103 [ことだま五七五]

十一月二十六日~十一月二十八日

   俳句  中村汀女・文  中村一枝

十一月二十六日
襟巻(えりまき)に狐は固さ鼻をのべ
         『都鳥』 襟巻=冬

 晩年、汀女は茶の間で投句を見ていた。あの頃は「日本経済」、「熊本日々」、「主婦の
友」……とにかく、様々の新開・雑誌の選者をしていたから、その忙しさは格別だった。姉の躊美子はいつも汀女の手伝いをしていたが、それでも汀女は一句一句目を通す。この人は余っぼど俳句が好きなんだな、私はいつもその事に感心していた。その時汀女が言った。 「一枝さん、これ見て頂だい」
 原句は忘れた。狐の襟巻と毛糸の襟巻が入口のドアですれ違うという句で、情景が浮か
び上がる句だった。「こういう事あるのよね」
 汀女はくっ、くっといつ迄も嬉しそうに笑っていた。

十一月二十七日
夕刊の香やあたたかく時雨けり
        『紅白梅』 時雨=冬

 今日もまた家出猫の張り紙を見た。このところ毎日のように犬探し、猫探しの張り紙を
見る。
 先週もミニデックスがいなくなったと飼い主が悲嘆に暮れていた。かわいくて小さければ、黙って飼って知らん顔というのも多いらしい。電柱の張り出しを見ていると、知ら
ない男性が「最近は人の道も地におちたね」と言う。
 そのダックスが見つかった。車にひかれそうなところを助け、持ち帰った人がいて、口
から口へ伝わり、無事飼い主の元へ。人の道、まだ捨てたものじゃない。

十一月二十八日
肉皿に秋の峰来るロッヂかな
        『春雪』 秋の蜂=秋

汀女は家でも外出先でも着物で通した。ふだん着の着なれた柔らかさもよかったし、華
やかな訪問着が、あの年齢でぴしっと決まる人も少ないと思えた。
 いつだったか、俳句の雑誌のグラビアに出た、つなぎのジーンズを着た汀女の素敵だっ
たこと。本人は照れていたが、元々上背があり、鼻の高い顔立ちは、洋服を着せてもぴっ
たりだったと思える。フランスの名女優の趣があった。若いころ、横浜のオデオン座でフ
ランス映画に熱中していたその感覚、きっと洋服を着ても、ハイカラでシックだったはず
だ。

『日めくり汀女俳句』 邑書林




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