SSブログ

地球千鳥足Ⅱ №6 [雑木林の四季]

入れ歯も泳いだエンジェル・フォール
   ~ベネズエラ・ボリバル共和国~

     小川地球村塾塾長  小川彩子

 危険を恐れていたのでは旅はできない。今回の旅の目的、ギアナ高地にある落差世界一(980メートル)のエンジェル・フォールは、そこに至る行程が未開発であるうえジャングルに囲まれているので、基地であるカナイマまで航空機で行くことになった。私とワイフはまずカナイマまでセスナ機で行った。滝を見るには飛行機からの遊覧か、それともポートでオリノコ川から上流へ遡行して見る2通りである。我々は遡上を選んだ。
 カナイマで応募したグループで泊まりがけの行程だ。川を遡上しジャングルを歩く。遡行中は水中に横たわる大石にぶつからないようガイドが細心の注意を払う。エンジン音の響きがその周辺にこだまし、そのこだまが両側の緑の密林を強調してくれる伴奏のようで快い。オリノコ川から支流のカラオ川へ。川幅が狭まった所は瀬が急流を作って瀬音も賑やかに響く。エンジェル・フォールを目指し、急流に変わったチユラン川を遡行すること1時間半、下船して湿地ジャングルの木の根と岩の密林を登ること約2時間だ。前半は水溜りをよけながらの蛇行で、湿度100%の蒸し暑さ、後半は木や岩に掴まりながら急斜面を登り、汗だくでようやく滝の全貌を見上げる岩場に到達した。その間、近づく滝の音に勇気づけられ、ヨイショ、ヨイショの掛け声がロをついて出た。
 流れる雲の切れ目から滝の上層部が見え、岩壁に2筋の水流を見せて滝の全貌が現れた。それはほんの一瞬の光景であった。写真撮影したくとも、待望の対象物が大き過ぎて滝の全景を撮ることができない。雄大な大自然の神秘が目の前にある。上層部の岩壁を伝って流れる2筋の水の情景は霊感を呼び荘厳そのもの。季節によっては3筋、4筋と広がり流れ落ちるが、世界中からやってくる人々をして感嘆させるのに充分であった。
 滝を見上げた岩場から暫く登った後かなり下ってやっと滝壷に到着した。その周辺は水飛沫が気化して靄(もや)っていた。水面は柿の渋を流したように光沢のある黒色をし、複雑な水流で盛り上がっていた。泳げるというので若者に交じってエンジェル・フォールの真下の滝壷で泳いだ。70代は私一人だったろう。水は冷たくて深い。ところどころに大きい石が沈んでいる。そのうち流れの速い落下点付近で、なんと入れ歯が勝手に泳ぎだしたではないか。パニック状態でそれを追いかけ、取り押さえるのに必死であった。見えなくなる寸前にかろうじて捕まえることができてホッと一息。やはり年なりのものの考え方をしないと、とんだ目に遭うと痛感した。南米の旅先で食事ができなくなると悲劇だからね。だが、滝壷で泳いだことは我が生涯の記念である。           

『地球千鳥足』 幻冬舎



nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。