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日めくり汀女俳句 №111 [ことだま五七五]

十一月ニ十三日~十一月二十五日

    俳句  中村汀女・文  中村一枝

十一月二十三日
枯れ切って菊美しや一葉忌
     『薔薇粧ふ』一葉忌=冬 枯菊=冬

 汀女の墓のある、築地本願寺和田堀廟所には樋口一葉の墓もある。一栗は、汀女より二十八も年が上で、汀女の生まれた時は既にこの世には亡い。女学生時代、西洋の戯曲、小説を読み漁った汀女が、一葉を好んだふしはない。むしろ泉鏡花のことをはっきり好きだったと書いているくらいだから、一葉はらち外だったらしい。その生まれ育ち、性格をとっても一葉と汀女に接点はない。仮に同時代に生きたとしても相見(まみ)え、研鑽し合いという事はきっとなかったろう。その二人が、奇しくも同じ寺の中で、それぞれ案内板をたてて眠っている。寺へ行く度に私はいつも不思議に思う。

十一月二十四日
枝跳(は)ねて紫式部雨後の照り
        『芽木威あり』 紫式部=秋

 今年は天候が不順である。十二月と言えば穏やかな日和が何日も続くのが普通なのに、一日晴れては二日ぐずつき、抜けるような青空が半日と続かない。人間は天気で気持ちを左右される。雨上がりの晴れた日、誰もが箒(ほうき)を持ち出し、庭から玄関を掃きまわり、いろんな物を干したくなり、犬の毛布までずらり。乾いた風に洗濯物がはためいていると、それだけで一種の満足感がある。
 主婦の生きがいとか今は上段に構えて力むむきも多いけど、ほんのささやかな幸せの連続こそ、真の生きがいなのだ。

十一月二十五日
打晴れて今日の落葉の急ぐこと
         『芽木威あり』 落葉=冬

 キャッシュカードで引き出す列に並んでいると、以前はモタモタするおばさんが多かった。最近はおじさんもこれに加わる。
 男は、女に比べてキカイには強いのかと思っていたが、間違い。女性は、すぐに係員を呼ぶが、男性は自分で対処しようとして「オソレイリマスガモウイチドハジメカラ」の声にモタモタしている。そういう人が四人もいると、まるでその場で銀行の機能が一時停止したような暗い雰囲気になる。
「コノキカイハアナタダケノモノデハナイ」。
 そういう音声を入れてくれないかな。

『日めくり汀女俳句』 邑書林



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