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地球千鳥足Ⅱ №5 [雑木林の四季]

針のむしろ‥英会話クラス

    小川地球村塾村長  小川律昭

 祖先が移民による多文化国家のアメリカではク難民のための義務教声というような意味合いで、ボランティアが英会話を教える無料のクラスが結構たくさんある。ボランティアといっても、教師の資格のある人が教えている。公立の小学校、中学校、高校などでもその建物の一角で、また企業経営の語学校でも昼、夜に分けて行われ、修了式まである。テキストはさまざまで、どちらかといえば生活に必要な実用的、コミュニケーション重視の英語だが、文法も書くことも教える。きまって質問されるのが、「週末は何をしたか」である。答え易い質問だと思っているのだろう。

 クラスのメンバーは家庭の主婦が結構いるが、主婦といっても子供のいない若い女性が多く、駐在員の奥さん風、留学生やその夫人、就労している友達のところに不法滞在しているようなちゃらちゃらした連中や、子供と同居している父母、中年の男性など。夜のクラスは昼間働いている若い人たちで、その風采からして店員やサービス業に従事している人が多いようだ。昼間のクラスには日本人駐在員の奥さん連中が多いが、友達を求めて暇つぶしにやってくる感じである。勉強後の昼食やおしゃべりぺりが楽しみようだ。

 州立入学の中にもこれら移民対象のESL (第二外国語としての英語)があり、昼間無料で教えている。教師のエイミーは大学所属ゆえ授業内容もきびしく、とにかく発言させるのが主目的のようである。生徒は、二時間半の授業中七、八回は当てられる。場所がダウンタウンで、半分以上がバス利用者ということは、車が持てない生活困窮者か、ビザなしの若者か、大学入学希望者か、いずれ誰かを頼って来ている人たちであり、スペイン語圏が圧倒的に多い。もちろん夫に連れられて入ってくる奥様連もいるが、総じて若い。クラスも初級、中級と分かれているが、初級でも結構しゃべる人がいる。でも発音となるといいかげんでよく聞き取れない。その点エイミー先生は大したもの、くせのある発音を聞き取って応答する。注意を与えることも忘れない。クラスは二十人強、欠席も多く、新旧の出入りの激しさにもかかわらず、よく生徒の呼び名が覚えられるものだと感心する。

 私の場合、二年間中断したのにもかかわらず、タダアキと名前を覚えていたのだから驚く。覚えにくい名だと思うのに。
 会話の方は、満足に出来ないのを承知で恥をかくことが自分を刺激することだと思って、懲りずに過二回通う。若者からは、「この馬鹿、懲りずによく来るなあ」と白い目で見られていることもよく承知している。教師から引導を渡されるまで、厚かましく行くつもりだ。この年になると、恥をかくことは良いことだとしか思っていないから。たまにスペイン系の若者たちから、「お前はチャイナか」と聞かれることがある。日本人に見えないのか、私がしゃべれないので、チャイナと思うのか。中国人の彼らが聞いたら立腹ものだ。私に言わせれば中国人は、彼らよりよっぽど言葉が得意で、しゃべれない人はアメリカに来ていないと思う。自分もしゃべれないで偉ぶるなと言いたい。でも日本人の恥を代表しているのがこの私かも知れん。
 授業で教わった対比語や、関連語を使って作文を書かせ、発表させられることが月二回はある。「それが出来ればここには来ない」と言いたいのだけど、今は「ソーリー」で人の発表を聞くだけだ。屈辱もここまでが限界かなといつも自分に言い聞かせながらも、恥を忍び、針のむしろに座らされている。
                          (一九九九年四月)

『万年青年のための予防医学』文芸社



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