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台湾・高雄の緑陰で №33 [雑木林の四季]

台湾問題の解説

     在台湾・コラムニスト  何 聡明

 私は毎日台湾に関する多様な日本のメイルマガジンを読んでいるが、台湾問題を論ずる日本学者のなかには台湾の歴史と現情を良く知らない学者がいることを遺憾に思っている。拓殖大学海外事情研究所の富坂聡教授は其の一人である。富坂氏は中国の北京大学中文系を中退しているのか、その著作の多くは中国大陸の元中華民国と中華人民共和国に限られている、台湾での留学経験がないため台湾の過去と現在を深く研究しなかったのであろうか。
 富坂氏は最近のメイルマガジンで:「台湾海峡は文字通りアジアの火薬庫だ。その危険性を認識せず、安易に口を挟むのは、ある意味で最上級の「平和ボケ」だ。台湾海峡問題の源流は戦後間もなく起きた中国共産党と中国国民党の内戦だ。現在も内戦は続いているが、長らく戦闘は起きていない。それは米軍の存在からも説明できるが、やはり大きいのは中国が一方的に「平和統一」を掲げ、舵を切ったことだ。ただ共産党指導層がどうしても譲れない条件が一つあった。それこそが「台湾独立」だ。中国が「平和統一」を掲げながら武力統一の旗を完全には下ろさないのは、その線を越えれば「いかなる犠牲を払っても」阻止するという決意を示すためだ。」と論ずる。
 富坂氏は現在も内戦は続いているというが、中国国民党と中国共産党の内戦はすでに終止し今では両党の擬似和解が進んでいる。中国共産党は台湾本土の民主進歩党(爾後、民進党と略称)政府が独立を目指せば台湾を侵略をすると脅かしているのだ。
 米国は1979年に中華民国と断交して、中華人民共和国を承認したあと、台湾との関係を米国国内法の「台湾関係法」等で維持しながら、中国は中華人民共和国だけである「一つの中国政策」を維持してきた。一方、中国は「一つの中国原則」を主張、その原則は台湾は中国の一部であり、台湾海峡も中国の領海であると勝手に決めている。
 富坂氏はまた「いま台湾海峡がきな臭くなってきているのは、長らく中台間で「一つの中国」を確認する──いわゆるレッドラインは踏み越えないとする──記号だった「九二コンセンサス(注:中華人民共和国と中華民国は各自『一つの中国原則』を堅持することでは一致するが、其の一中が誰かは必ずしも一致していないコンセンサス)を民進党の蔡英文政権が「なかった」と宣言したためだ。」と説く。台湾には戦後中国より亡命して来た中国国民党による外来政権と1986年に成立した民進党による本土政権との間に極めて相異した立場と意識、生活文化、価値観に亘って葛藤が続いているのである。
 然しながら、「九二コンセンサス」の存在を最初に否定したのは初の台湾人総統である中国国民党籍の李登輝氏であり、2000年に李政権を引き継いだ本土民進党の陳水扁総統も続いてそれを否定した。「九二コンセンサス」を肯定したのは、2008年に陳政権を継いだ中国国民党籍の外省人馬英九総統だ。2016年の選挙に勝って馬政権を引き継いだ民進党の蔡英文現総統は当然「九二コンセンサス」を否定したので、中共政府は蔡政権に激怒しているのだ。
 富坂氏はさらに:「こんななか日本がアメリカの手先となって台湾問題に口を出すメリットは何なのだろう。口を挟んでも日本の安全保障環境が好転することはない。むしろ明確な敵を一つ作り出し、悪化は明白だ。日本の過去の侵略が台湾から始まったことを考えれば、戦後77年間の平和への取り組みも水泡に帰すかもしれない。」と説く。これこそが「最上級平和ボケ学者」の警告であろう。ウクライナ侵略の次は台湾かもだが、若しロシアが日本の北方四島占領に止まらず北海道侵略、共産中国が尖閣列島と沖縄県侵略の際、防衛力のない平和日本はアメリカの手先にななって台湾問題に口を出すなである。
 1894年の日清戦争は日本が台湾への侵略から始まったのではなく、日清戦争で勝利した日本帝国が敗者の清国と1895年4月17日に下関で締結した日清講和条約で清国が日本に台湾を割譲したのが史実であり、太平洋戦争で日本帝国が敗戦するとサンフランシスコ平和条約で、日本は台湾の主権を放棄したが、勝者代表の米国は日本の殖民地人民であった台湾住民の意向を問わず、誰も署名していない新聞広報の「カイロ宣言」に基づき、台湾本島と澎湖諸島を中華民国の管轄に組み入れて現在に至っている。だが前述の如く米国は40年前既に中華民国と断交し、台湾との関係は台湾関係法等に基づいている。
 「台湾独立」は戦後の1947年台北市で起こった中国国民党陳儀政府による228台湾人虐殺事件と1949年国共内戦に敗れて中国大陸から台湾に亡命政権を樹立後蒋介石元帥率いる中国国民党政権が38年間施行した軍事戒厳令に反抗して数多くの犠牲を払った本土台湾人の長年の念願と努力であることを是非富阪氏に知って欲しい。絶対多数の台湾人は中国国民党の専制政権に勝るとも劣らない中国共産党専制政権に武力または平和的に統一されることを全く望んでいない。米国の協力を得て自衛力を強化するのは当然である。
 ちなみに、21世紀に入り、共に民主主義を尊ぶ台湾と日本は最友好隣国であるとお互いに考えているのが現実ではないかと私は思う。それゆえ、台湾政府は早急に中華民国憲法を破棄し、台湾憲法を制定して「台湾共和国」と名乗ることを最重要国策として尽力すべきである。

2022年6月15日  


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