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日めくり汀女俳句 №105 [ことだま五七五]

十一月八日~十一月十日

    俳句  中村汀女・文  中村一枝

十一月八日
われとわが冷えてゐし身に懐手
        『都鳥』 懐手=冬

 犬の散歩をするようになって二十年余。毎朝、その人の出勤時問にぶつかった。いつも黒塗りの車が迎えにきていた。腰の低い感じのいい運転手にも、彼はふんぞり返って短くこたえるだけ。どこかの官庁の役人だそうだ。何てイヤな奴と思っていたが、二、三年前から車を見なくなった。
 いつからか頭ははげ上がり、時々徒歩で朝出かける。天下りでもしたのだろうが、昔ほどの地位ではないのかも。その彼がゴミ出しを始めた。雨の中を両手にゴミ袋を持っている。昔よりずっと穏やかでいい顔だった。

十一月九日
銀杏(ぎんなん)が落ちたる後の風の昔
           『春暁』 銀杏=秋
 
 汀女の夫重喜が亡くなったのは、昭和五十四年二月三日。一週間前自宅で倒れ入院、そのまま戻らなかった。頑固で融通のきかない偏屈な一面、どこかとぼけたユーモアもある人だった。
 子供のころの話をしてほしいというと、納々と語ってくれた。陽炎の立つ道を、父親と二人で歩いた話をしながら、思い出をさぐる優しい目をした。
 「美人は三日一緒におれば、どれも同じですよ」と言った時は何となく実感があった。私は汀女が夫にほれていたより、むしろ重喜が終生ひそかに彼女を愛し続けた気がする。

十一月十日
初時雨カトレヤ命ながき花
        『紅白梅』 初時雨=冬

 NHKの教育でやっている″しゃべり場”。中高生を中心に、大人のゲストを交えて若者の直面している問題を話し合う。人によっては今の若者は甘ったれているとか、自己中心的過ぎるとか、批判が多いが、私には知らない世代の素顔がのぞけて面白い。シラケているようで、やはり若者らしく熱い思いもある。表現の仕方、物の見方が未熟なのは当然だし、そこが魅力。
 大人たちは一度胸の中に宿している自分たちの若い目と正面切って向き合ってみるといい。今どきの若い者は、という言葉が出てくるかどうか。

『日めくり汀女俳句』 邑書林



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