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エラワン哀歌 №24 [文芸美術の森]

エラワン哀歌

       詩人  志田道子

夕暮れの雑踏の中を
男はリュックサック一杯の爆薬を担いで歩く
鶏の皮の焼けた臭い
香草の臭い 油にはじける玉葱 人参 ピーマン もやし
一日中照り付けていた太陽の熱のなごり
吐気をおぼえる人いきれ
男は何も考えていない
  悪こそ力 むかしからずっとそうだった
  変えなければならないのは碓かなことだ 何かを
暗黒の使者の役割を自分がなぞっているという
ふわふわした居心地の悪さ
エラワンの祭壇に香を捧げる人々
何かの運命に導かれてここに来た
まさにこの時この一点で交わった
運命で結ばれたものへの憐憫 か
  君たちをみんな抱きしめるよ
  こんなにも愛しているのだから
そうして
意思を捨てて歩く男は
肩から爆薬をも下ろし
道端において
ふわふわと
心虚ろにその場を去って行ったのだ とか


* エラワン祠はタイ・バンコクの中心部にあるヒンズー教の祠。ブラフマー(天地創造神)が祭られており、金運アップにご利益があるとされ、バンコク第一のパワースポットともされている。一九五六年建設作業での事故多発を受けて土地の悪霊調伏のために設置された。ニ〇〇六三月二十一日精神に問題を抱えたイスラム教徒によってブラフマー像が破壊される事件発生(犯人はその場で暴徒に殴り殺され、像は二か月後修復された)。二〇一五年八月十七日爆破事件発生。二十人死亡、百二十五人負傷。

『エラワン哀歌』 土曜美術社出版販売



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