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日めくり汀女俳句 №103 [ことだま五七五]

十一月二日~十一月四日

   俳句  中村汀女・文  中村一枝

十一月二日
行きずりに稲載せし舌ほの痛む
        「汀女初期作品」 稲=秋

「大草原の小さな家」、おなじみローラ・インガルス・ワイルダーの自伝的小説。テレビで何回も再放送している。私は大人になってからこの原作を読み熱中した。一八七〇年から八〇年代のアメリカの開拓生活を、少女ローラの目を通して描く。「赤毛のアン」や「若草物語」にも共通するが、当時の人々の素朴だが、誠実な、ハートのある暮らしぶりがなつかしい。
 物もお金も少ない時代には、人間はこんなにも豊かで輝きのある生き方ができた。文明の進歩がもたらした功績は偉大だが、失ったものも大きい。

十一月三日
枯芭(かれすすき)ただ輝きぬ風の中
          『花影』 柚だ=冬

 水道の漏水が二度続いた。四十年以上たった老屋は、家中が動脈硬化、成人病である。
その前は給湯設備が故障して、やはり業者にきて貰った。給排水、空調といったものは今は、家になくてはならぬもの、それぞれにからみ合って機能している。
「これさあ前にやった業者どこの人?」
「工務店の人が連れてきた人と思うけど」
「こういう風にハンダづけされちゃうと困るんだよね。それにこの管の取り付けもまずいし」どこかで聞いたような言葉だなあと思ったら、歯医者さん。まったく口の設備も家の設備も、医者も業者も同じことを言う。

十一月四日
旅の子の第一信や花桔梗
       『花影』 桔梗=秋

 十一月六日に汀女の記念切手が発売されるという。汀女が切手になると聞いたら、祖母ていはどんなに喜ぶだろう。ていは、娘によく手紙を書いた。大きなひらがなの、一本一本の線にどんなに一生懸命書いたかが分かる。汀女は、毎回切ない思いでその手紙を受け取った。水害の時の手紙。「……二夜は休みなしでした。村のカネが何べんとなりたり、たき出しに信子たち出たり、それはもう江津ども切れたそうなうわさとりどりで……」。電話では伝わらない生々しい気持ちが、手紙では伝わってくる。

『日めくり汀女俳句』 邑書林



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