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過激な隠遁~高島野十郎評伝 №71 [文芸美術の森]

ノート10

   早稲田大学名誉教授  川崎 浹

帰りゆく里もなき身のなにゆへに
あの御(オン)山にぞゐねざりしかや

三神の峰までつゞく石段に
一とふみごとよ思ふことなく

我が心しづもりあれよ石段の
杉の並木のはても見えねば

物買ひて店の娘のほヽゑみて
手渡しくれし出羽の思ひ出.

久々に筑紫の郷に来てみれば
(今は昔と秋風のふく)
 菜の花夢に秋風のふく

行く雲と思ひみる気はなけれども
ついうかと我が心かな

変らぬは今も昔も筑紫野に
空ゆく雲と恩ひみるかな

あかあかと思ひはつきず立ち居れば
筑紫の野辺に日は暮れて行く

『過激な隠遁~高島野十郎評伝』 求龍社


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