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過激な隠遁~高島野十郎評伝 №70 [文芸美術の森]

ノート9

  早稲田大学名誉教授  川崎 浹

ふるさとも今はなき身の海に来て
母にまみゆる母よ我がうみ

  海は私のお母さん
  古郷も今は無き身の海に来て
  母にまみゆる母よ我がうみ
  思はず 聾の限りに
  呼びかけて見ると 必ず
  適確な返事をつぶやき返してくれる
  巻いて来る白狼の沖から
  水平線の難方から
  海はわがはは

いかにせん海動かずは我がいのち
探空の雲も流れざらまし

海うごく故にぞ渉る人もあらん
岩上に立てばせんすべもなし

月うかぶ空のまことのむなしくも
我が身のほどの思ひ知らる

羽黒山登るによろしたゞ一人
息つき居れば山鳩のな

三山の峰をも越えで帰り来し
我れ老ひ知るや知らず老ひしか

『過激な隠遁~高島野十郎評伝』 求龍社


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