SSブログ

現代の生老病死 №13 [心の小径]

現代の生

     立川市・光西寺  寿台順誠

(1)生殖補助技術から生命の操作へ

 さて、最後に「現代の生」の問題に行きます。ここまで「現代の老・病・死」はとにかく引き延ばされている、そのプロセスが引き延ばされているところに現代の苦の在り様があるということを申し上げてきた訳です。そこで、そうした現代の老若・病苦・死苦はいかなる生の閉篭によって生み出されてくるのか、現代において「老・病・死」と「生」はどういう関係になっているのか、それを考えるために「現代の生」の問題を取り上げたいと思う次第です。
 先ず「現代の生」に特徴的なことは、やはり、かつては自然に授かると考えられていたものが、人為的に操作されるようになったということではないでしょうか。その点がかつてとは全く異なる点だと私は思います。それで、人工授精とか体外受精とか代理母とかといった生殖補助技術(ART=assisted reproductive technology)が問題になってくるわけですね。その概要については、非常に分かりやすい表だと思いましたので、次頁に玉井真理子・大谷いづみ編『はじめて出会う生命倫理』(有斐閣,2011)という教科書の中の小門穂「身体から切り離された精子・卵子・受精卵-生殖補助技術が問いかける親子の絆-」(41頁)に掲載された表を出しておきました(次頁の「表2-1生殖補助技術の種類」参照)。この表について今は詳しく立ち入った説明はしませんが、とにかくこのように嘗て出来なかったことが、医療技術の発達によって人為的に出来る領域が増えたということですね(19)。(図表略)
 そして、そういうことと相まって最近問題になってきていることに、出生前診断ということがあります。これについても、出生前診断にはどのようなものがあるのかを分かりやすくまとめてくれていましたので、河合蘭『出生前診断-出産ジャーナリストがみつめた現状と未来―』(朝日新聞出版,2015,22⁻23頁)の表を22頁に載せておきましたが22頁の「図表2胎児疾患を調べる検査」参照)、近年日本で特に問題になってきているのが、この表の一番下にある「新型出生前診断」ですね(20)。これは血液だけで診断出来るというものですが、とにかくそのような診断をして、例えばダウン症のような障害児だということが分かると、多く(9割)の人は中絶をすると言われています。又、場合によっては、体外受精で得られた胚から細胞を採取して遺伝子診断を行う着床前診断もおこなわれるようになってきましたが、(23頁の図3着床前信d何の手順参照(21)、このようにせいしょく頬j技術が遺伝子技術操作技術tp結合すると、生まれてくる子の「質」を選別することにつながります。(22)つまり、生殖補助技術はもともと不妊治療のためのもので、当初は不幸にして子どもが出来ないカップルがせめて子どもを持ちたいという切実な願いを満たすためだったものが、段々どんな子でもよいということには終わらなくて、やはり「優秀な子が欲しい」ということになってくる訳です。アメリカではノーベル賞受賞者等の精子を貯めておく「精子バンク」があると言いますね。そういう中で、「優秀な子」をデザインしようとする選別が始まってくる訳です。まさに「デザイナーズ・ベイビー」です。

註(19) この表の中の親子関係を決定する上で倫理的に問題のあるものにつき補足説明を加えておきたい。提供精子を用いる「非配偶者間人工授精」(AlD=artificial insemination by doner,Ⅱの1(2))、「非配偶者間体外受精」の「提供精子による体外受精」(Ⅱの2(2)①)では、遺伝上の父親と養育する父親が異なることになる。提供卵子を用いる「非配偶者間体外受精」の「提供卵子による体外受精」(Ⅱの2 ②)の場合には、産み育てる母親と遺伝上の母親が異なることになる.精子と卵子の提供を受けて受精卵を作成する場合及び受精卵の提供を受ける場合である「提供胚の移植」(Ⅱの2(3))では、遺伝上の両親と養育する両親が異なることになる。また、第三者の女性に妊娠・出産を代行してもらう「代理出産」(代理懐胎)には、子を持つことを望む依頼夫婦の夫の精子を第三者の女性に人工授精する「人工授精型代理出産」(surrogate mother,Ⅱの3(1))、依頼夫婦の受精卵を第三者の女性に産んでもらう「体外受精型代理出産」(host mother,Ⅱの3(2))がある,

(20)染色体疾患の有無を確実に知ることが出来る「確定診断」として、腹部に穿刺して羊水を採取する「羊水検査」と絨毛を採取する「絨毛検査」があるが、これらには一定の確率で流産につながるリスクがある。それに対して、異常のある可能性を推し量るものでしかない「非確定的検査」の中では、母体の血液だけで染色体疾患が分かるもので、しかも精度(陽性的中率)の高い「新型出生前診断」(NIPT)に注目が集まっている。尚、「母胎血清マーカー検査」や「超音波検査」などの検査も、胎児細胞を直接調べるものではなく、染色体異常がある時に起こる変化(例えば血液中のあるタンパクの増減や体の構造の変化)を評価して検討する「非確定的検査」である.

(21)この図は、小林亜津子『生殖医療はヒトを幸せにするのか一一生命倫理から考える一一』光文社新書,2014,117頁のものである。着床前診断とは、体外受精の際に受精卵の段階で子どもの病気や性別、白血球の型などを診断する技術で、これによって重篤な遺伝性疾患をもつ子どもの出生を回避したり、性別の希望を叶えたり(男女産み分け)、先に生まれた子どもに移植の必要のある疾患(白血病のような)がある場合にドナーとなる子どもを誕生させたり(救世主きょうだい〔弟妹〕)、といったことが可能になるのである.

(22)この点に関し特に参考になったのは、小島優子・黒崎剛「「生殖革命」は人間の何を変えるのか」黒崎剛・野村俊明編著『生命倫理の教科書一一何が問題なのか一一』ミネルヴァ書房,2014,177頁.

名古屋市中川区 真宗大谷派・正雲寺の公開講座より


nice!(1)  コメント(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。