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エラワン哀歌 №17 [文芸美術の森]


     詩人  志田道子

 突然昼過ぎから降り積んだ火山灰が
 夕闇が落ちる頃には
 まるで季節はずれの雪景色のように
 家々の屋根も道も雑木林も包み込んで
 ぼっと白く浮かび上がらせた
 遠くに火山の爆発の音を聞いたという人がいた

 香炉に貯まる灰のように
 明るく細かい白ではない
 薄青黒くなめらかな灰は重く
 キシキシと靴底を滑らせる
   また ふりましたねぇ と
 見知らぬ苦笑が通り過ぎて行く

 くたびれた 暑気が ただよい  たそがれを
 迎えた町に 黒胆汁の 臭いが 忍びよる
 ブドウに 被害は 出ていないか
 小学校の 校庭も しばらく 使えまい
 ふと 突き上げる 焦燥
 一瞬 熱く わたしの身体を焼いた

 灰はいのちの果てか
 残照に黒くしなやかに浮かび上がっていた
 山の稜線から
 灰は何のいのちを燃やし尽くして飛んで来た?
 ちいさな虫や草木の満足を嘲笑い
 自然の計り知れぬ大いさをただ存在させるために

* 長野県の浅間山では二〇〇四年九月中旬にも中規模噴火が見られた。

『エラワン哀歌』 土曜美術出版販売



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