SSブログ

現代の生老病死 №9 [心の小径]

現代の病
 
       立川市・光西寺  寿台順誠

(3)新型コロナウイルス禍の問題-生活習慣病から感染症の時代へと逆流するのか?

 ところが、今日私はどうしても言っておかねばならないと思う問題は、今のコロナの問題が持ち上がってから、以上のように「感染症から生活習慣病へ」として語られてきた現代の疾病構造の変化について考え直さねばならないのではないか、「生活習慣病から感染症の時代へ」と又時代が逆流しているのではないかということです。確かに「感染症から生活習慣病へ」と言っても、実は戦後も世界的に見ると感染症で亡くなる人が一番多かったのですが、しかしそれはアフリカのような途上国の問題で、いわゆる先進国と言われるところは、感染症からはもう解放されたのだと私たちは思い込んできたのではないでしょうか。それを今改めて問い直す必要があるのだと思うのです。
 そこで、現在のコロナの問題に対する各国の対応と将来の見通しについて試みに考えているのですが、先ず各国の対応については、次の三つに分けられるという見方があります(14)。一つ目はブラジルやアメリカの対応で、「ネオリベラリズムの経済優先政策」です。最近、やっとトランプ大統領もマスクをするようになったということですが、しかしとにかく経済を最優先させる訳ですからもの凄い感染者を出している訳ですね。日本の政策もここに分類されると見られているようですが、どうでしょうか。「Go toキャンペーン」などはそういうものかもしれませんね。それから三つ目は中国がとっている立場で、「権威主義的な封じ込め政策」です。これは理解しやすいことですね。けれども、病気を封じ込めるのはよいのですが、中国は香港に見られるように民主主義まで封じ込めようとしちやいますから、それは非常に問題ですね。ウイルスと民主主義は違いますからね。が、それはそれとして、三つ目は韓国や香港・台湾が取ってきた立場で、以上の二つの中間にあるものだと言ってよいでしよう。それは「早期の徹底した検査と封じ込めによる軟着陸的な政策」で、「経済か健康かのジレンマを穏健に両立」させるものだと言われています。この分類を出している論者は、この政策を最も評価しているようですね。いずれにせよ、この分類は参考になると思います。
 そして、この各国の対応を念頭に置いて、次にこれまで「宿主と微生物の関係」にはどういうパターンがあったかを見ておきたいのですが、それには次の四つのパターンがあったと言われています(15)。「宿主」というのは、微生物(細菌やウイルス)が寄生する相手方の生物のことですが、今は人間のことだと考えればよいですね。その関係として、第一に「宿主が微生物の攻撃で敗北して死滅する」というパターンがあり、第二に「宿主の側の攻撃が功を奏して、微生物が敗北して絶滅する」というパターンがあると言いますが、ただこれまでに本当に絶滅させて制圧した感染症は天然痘しかないと言われています。結核だって今でもある訳ですからね。次に第三に、「宿主と微生物が和平関係を築く」というパターンがあるとされています。細菌よりも他の生物に寄生してしか存在し得ないウイルスの場合は特にそうですが、宿主が死んでしまうと自分も死んでしまいますから、進化すると宿主を殺さないようにだんだん弱毒化すると言われます。「ウイズコロナ」というのは、そういう願望をもって言っていることでしょうが、この場合どうしたら和平関係をうまく築けるかということが問題になりますね。そして最後第四に、「宿主と微生物が…果てしない戦いを繰り広げる」パターンがあるということです。ひとたび感染すると宿主の神経細胞に永久に潜み、忘れたころに帯状癌疹等を引き起こす水痘瘡がその例として挙げられています。
 私は、この「宿主と微生物の関係」のパターンと先ほどの各国の対応とを考え合わせてみて、どの対応策・政策を取った場合にどのパターンに行きつくのか、その見通しがつけられないかと思い、以上のことを紹介した訳です。例えば、ブラジルやアメリカのような経済優先政策を取っていると、第一のパターンのように宿主が死滅してしまう恐れがあると言えるかもしれません。或いはウイルスの方が賢く進化して運よく第三のパターンの和平関係になるかもしれませんね。それから、中国のような封じ込め政策を取るということは、これはやはり第二のパターンの微生物を絶滅させる強い意志の表われだと受け取ることが出来るのではないでしょうか。このような形で、各国の対応と宿主と微生物の関係を考え合わせることで、多少なりとも将来を見通す見取図くらいは描けるのではないでしょうか。

(14)酒井隆史「ハンデミック、あるいは〈資本〉とその宿主」『思想としての〈新型コロナウイルス禍〉』河出書房新社,2020,103頁.
(15)石弘之『感染症の世界史』KADOKAWA,2018,56-59頁.

名古屋市中川区 真宗大谷派・正雲寺の公開講座より


nice!(1)  コメント(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。