SSブログ

梟翁夜話 №9 [雑木林の四季]

「玉葱考」

       翻訳家  島村泰治

十一月になると、北国から初降雪の知らせが舞ひ込む。わが菜園では、常のこと正月用の小松菜や春先の白菜を見込んで種を蒔き苗を育てるのだが、ここ二、三年玉葱に凝っており、植え付けから収穫、保存の技と年毎に巧みになってをる。それに気を良くして、今年は今までで最多の四五〇本の苗を仕込み、土日の二日間かけてしっかり植え込みを済ませた。

採卵して最寄りのべにばなふるさと館で頒布してをる愚妻はわが庵の鶏奉行、好調の玉葱栽培も取り込んで今や玉葱奉行にも名乗り出て、去年今年と玉葱の植え付けを一手に引き受けてくれた。植え込む手付きも堂に入ったもので、近しい人々に贈って喜んでもらうのだとて、大いに気が入ってゐる。おっと、その一週間前に老骨に鞭打って、畑に堆肥を漉き込んで耕す作業を担ったわが労も忘れてくださるな。

玉葱はわが庵のソウルフードだ。フランスでは出汁に使ふと云ふこの野菜、ここでは炒める煮る焼くと万能に働く。飛び切り美味いのはバウムクーヘンの様に厚手に輪切りにし、切り口を狐色に焼き上げて醤油で食ふと云ふ、豪快な一皿だ。

私は頗る付きの海藻好きで、昆布和布には目がない。昆布は日高止まりで利尻は遠いが、どちらにせよ厚手の奴を刻んで浅く酢漬け、まだしっかり芯のあるのを噛み込むのが大の好みだ。和布なら、戻したものにわが玉葱を梳き込み酢醤油で食ふのが絶品だ。和布との取り合わせでは、その辺りの店で買ふ玉葱とはかうも違うかと思ふほど味が違ふ。他の野菜でもさうだが、どう云ふわけか、玉葱に関しては他所の奴は食ふ気がしない。

何百個と収穫して困るのが保存だが、去年から今年に掛けてわが奉行が妙計を案じて長期保存を実現してゐる。何と、鶏舎内の空間を活用して吊るすとのことで、聞けばこれで年を越せると云ふから将に妙計だ。

植え終はった玉葱畑を見渡して、来年も美味い奴を食へるなと、ほくそ笑んでをる。

nice!(1)  コメント(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。