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妖精の系譜 №14 [文芸美術の森]

アーサー王伝説のフェ 3

       妖精美術館館長  井村君江


マーリンを欺いた湖の精ニミュエ


 魔法使いマーリンは自分で教えた術を女魔法使いに使われ、生きながら永遠に閉じ込められてしまうが、その場所は、空中の霧の城の中、または地下の洞穴の中と伝えられてお。、この女魔法使いは、前者ではブリタニーの森に住む泉の乙女、後者では女狩人とされている。女魔法使いがマーリンを閉じ込めた動機もさまざまあり、(1)マーリンの献身に満足せず、もっと強くマーリンを自分に惹きつけておくため自分しか知らない所に閉じ込めた、(2)年老いたマーリンの深情けにうんざりし解放されたいが、マーリンが悪魔の子なので恐ろしく、彼の術を用いて閉じ込めた、(3)処女性を守るための保身から閉じ込めたとする説もある。
 マロリーの『アーサ王の死』では(2)の設定がなされており、アーサーとグウィネヴィアの結婚式の祝宴が張られている大広間に、白い牡鹿が突然駆けこんでくるとそのあとから、短い緑の上衣を着て弓矢を持ち猟の角笛を首にかけ、白い馬に乗った婦人が現われる。これが湖の乙女(ダムゼル・オブ・ザ・レイク)の一人ニミュエで、マーリンはその魅力の虜となり、溺愛し乞われるままに魔術を全部伝授してしまう。このニミュエの姿には、月の女神で女狩人であるダイアナの姿が重ねられているので、湖や森に深く関わっているわけである。
 ニミュエには、多くの異名があ。、それと共に多くの映像が重ねられている。その淵源を辿れば、ケルト神話に登場する常若の国(テイル・ナ・ノグ)の王の娘ニアヴ(Niamh、Niake)こ行き着くが、それからNiake、Ninianeが派生し、ラテン語の形NinIanusが、五世紀のアイルランドの聖女、聖ニニアン(St.Ninian)から形成されたNenn、Neann、Nelnから作られ、それがフランスへ渡ってNimue、Ninianeとなった。これがさらにイギリスへ入り、さまざまな物語に現われてくるときにはまた形を変えてきている。例えば、ニマーヌNimane(『マーリン』一五二八)、ニマーヌNimane(『異本(ウルガタ)マーリン』)、ヴィヴィアンViviane(『マーリン』一五二八)、ヴィヴィエンヌVivianne(『フス・マ一リン』フランス語)等あり、マロリーにもニミュエNymueのほかニニューNyneue、Ninyueという表記がみられる。
 従って、マロリーの物語でニミュ工として登場する湖の乙女には、(1)月の女神ダイアナ(女狩人、処女の守り神、子供の保護者、森と泉の支配者)、(2)ケルトの女神ニアヴ(常若の国の王女、妖精の国の女王)、(3)聖女ここアン、(4)泉の乙女、(5)女魔法使い、(6)性的な誘惑者、といったさまざまな映像が重ねられている。(1)の性質から、ある物語ではランスロットの保護者ともされ、アーサー王をアヴァロンの島に連れていく三人の女王のうちの一人にもされている。

『妖精の系譜』 新書館



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