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行くも良い良い、行かぬも良い良い……句会物語 №100 [文芸美術の森]

行くも良い良い、行かぬも良い良い……物語
こふみ会通信 №100 (コロナ禍による在宅句会 その15)
「鳥渡る」「身に入(し)む」「菊日和(きくびより)」「後の月・十三夜」
                俳句・こふみ会同人・コピーライター  多比羅 孝

当番幹事(虚視氏&華松さん)から連名で、下記のような≪令和3年10月の句会≫の案内が届きました。

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こあみ句会のみなさまへ

長袖を着たと思ったらいきなり半袖。
地球は確実に狂い始めている様ですが、俳句の世界は、もうすっかり秋。
今月の兼題も秋真っ盛りです。

兼題
 鳥渡る(とりわたる))
 身に入む(みにしむ))
 菊日和(きくびより))
 後の月 (のちのつき)・十三夜でも可)

投句締め切りは、10月17日
以後、出来るだけ早く一覧を作成、集計したいと思っています。

今月の幹事は、虚視、華松
投句は虚視、華松の両名にお送り下さい。

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【上載の通知によって作成・投句された今回の全作品】は下記のとおり  16名  64句

≪鳥渡る≫
ペンギンの池をねぐらの渡り鳥  (すかんぽ)
登るべき山まだ高き畠渡る  (虚視)
月明かり万年の夢鳥渡る  (玲滴)
マスクの群れ睥睨しつつ烏渡る  (矢太)
すれちがふ碧眼の僧鳥渡る  (弥生)
鳥渡る孫の産まれし知らせ来る  (尚哉)
鳥渡る軽き身一つで羨まし  (下戸))
鳥渡る路面電車の過ぎた道  (紅螺)
鳥渡るユージンスミスの大自然  (鬼禿)
東京は 広重の空 鳥渡る  (茘子)
双眸の背き空へと鳥渡る  (小文)
鳥渡る我にも欲しい翼かな  (舞蹴)
空へ続く鉄橋の町に鳥渡る  (一遅)
駆け出した こどもらのうえ 鳥渡る  (兎子)
烏渡る一心不乱に次目指し  (華松)
鳥渡る 誰かが誰かを 想ってる  (孝多)

≪身に人(し)む≫
身に入むやサンマのいない海暗し  (下戸)
噛みしめて 後悔身に入む 帰り遺  (孝多)
争いで後(のち)の日暮れの身に入みぬ  (茘子)
ひとり居の身に入む朝やセーター出す  (一遅)
抱えれば身に入む膝の冷たさや  (小文)
スカーフの絹が身に入む遠い帰路  (紅螺)
祖父の手のぬくみ恋しや身にしみて  (華松)
風の音身に入みて妻口きかず  (尚哉)
身に入むや族に終わりのあるを知る  (虚視)
かみ合わぬ会話身に入む吐息かな  (舞蹴)
義仲寺の芭蕉の墓や身にぞ入む  (玲滴)
身にしむや軋み由々しきわがボルボ  (すかんぽ)
身に入むや畳紙(たとう)に残る母の文字  (弥生)
志村ら皆 去って身に入むコロナ風  (鬼禿)
身に入むや悪人なおもで往生す  (矢太)
黙っている 秒針の音 身に入む  (兎子)

≪菊日和≫
真っ直ぐな茎に咲きたし菊日和  (華松)
Zooml越し久々の友菊日和  (玲滴)
切り分ける羊糞厚く菊日和  (弥生)
玉砂利の音の途切れず菊日和  (すかんぽ)
浮くほどに深呼吸する菊日和  (一遅)
菊日和 天皇へイカ バンザイト  (鬼禿)
さよならを もう一度言う 菊日和  (兎子)
人流を愛でたくもあり菊日和  (尚哉)
菊日和老いてなおまだ生臭き  (虚視)
初産の四十路の妻や菊日和  (紅螺)
かき合わす襟美しき菊日和  (舞蹴)
菊日和ナイフに映る空の色  (矢太)
白無垢の指先の白菊日和  (小文)
介護用ベッドぽつんと菊日和  (下戸)
破れ障子焼かんばかりの 菊日和  (茘子)
咲くを愛(め)で 歩くを楽しむ 菊日和  (孝多)

≪後の月・十三夜≫
後の月 我に似たりと 目を閉じる  (兎子)
灯(あかり)消し盃に移さん十三夜  (茘子)
触れているあなたの肩に後の月  (華松)
草に出て草に埋まるる後の月  (鬼禿)
十三夜想ひは喉を逆流す  (すかんぽ)
年下の友また一人逝く後の月  (矢太)
戯れに影を踏み合ふ十三夜  (尚哉)
東山浮かび上がらせ十三夜  (下戸)
十三夜 手首の細い 人でした  (孝多)
いつの問に二人となりぬ後の月  (舞蹴)
風になり玻璃(はり)たたく君十三夜  (弥生)
山さらに沈黙深き後の月  (小文)
指折って残夢数える十三夜  (一遅)
またひとり友欠けゆくや後の月  (虚視)
立ち飲みの外濠通りの後の月  (紅螺)
ベランダに椅子持ちだせり後の月  (玲滴)

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【天句の鑑賞】
「天」に選んだ句とそれに関する鑑賞短文を簡潔に書くというこふみ句会の約束事。

●スカーフの絹が身に入む遠い帰路 (紅螺)
鑑賞短文=スカーフの絹が身に入む」という女性ならではの実感がすごい。ため息を吐き帰り道をいく女性の辛さが目に浮かぶ。 [舞蹴]

●菊日和ナイフに映る空の色 (矢太)
鑑賞短文=このナイフはケーキを切るナイフではなく凶器としてのナイフ。穏やかな日常に潜む狂気と凶器。深読みでしょうか?  [弥生]

●風になり玻璃(はり)たたく君十三夜 (弥生)
鑑賞短文=窓揺らす風に不在の相手を思う……胸がキュンとなります。  [紅螺]
鑑賞短文=思い入れの深い句ですね。雨月物語、「菊花の契り」を思い起こさせる、ちょっと怖い句です。[茘子]
鑑賞短文=おそらく自らの半身とも思う人だったのだろう。哀しくも美しい句です。[虚視]

●身に入むや旅に終わりのあるを知る (虚視) 
鑑賞短文=難しい季語。考えつめれば、己の生き方・死に方になります。上手な句です。鬼だと下5は「トボトボと」になりそうです。  [鬼禿]

●身に入むや畳紙(たとう)に残る母の文字 (弥生) 
鑑賞短文=自身にも似たような経験があります。すでに先人が読んでいたかのような完成度の高い名句です。  [すかんぽ]

●切り分ける羊羹厚く菊日和 (弥生)
鑑賞短文=そろそろ甘いものが欲しくなる秋晴れの何気ない日常。向田邦子のエッセーを読んでいるようです。 [小文]
鑑賞短文=羊羹という、ひとり分が定まらない古典的なお菓子。少し厚く切って、夫婦水入らずの菊日和の午後だろうか。それとも 客に心浮き立つ、家人のもてなしだろうか。さまざまなことを連想させる、心地よい句でした。  [一遅]

●戯れに影を踏み合ふ十三夜
鑑賞短文=一目ぼれのような句ですので、上手く説明できません。とても好きです。 [華松]

●さよならを もう一度言う 菊日和 (兎子)
鑑賞短文=逢瀬での別れ際の景か、いや、永遠の別れの葬送の情景だろう。嗚呼、身に入む。 [矢太]

●抱えれば身に入む膝の冷たさや (小文)
鑑賞短文=・・・・膝は大事な部位。ここが伸びればことを起こせる。はやく膝を温めて、立ち上がってください。 [尚哉]

●すれちがふ碧眼の僧鳥渡る (弥生)
鑑賞短文=フォトジェニックで雄大。ドキュメンタリー映画のワンシーンを見ているような句。 [下戸]

●かみ合わぬ会話身に入む吐息かな (舞蹴)
鑑賞短文=オンライン会議でうまくコミュニケーションがとれない。こちらの思いが届かない。寂しさと諦めを感じます。 [兎子]

●十三夜思ひは喉を逆流す (すかんぽ)
感想短文=一葉の小説を思い浮かべました。「喉を逆流す」が鮮烈でした。 [玲滴]

●かき合わす襟美しき菊日和 (舞蹴)
鑑賞短文=単なる写生句ではありません。とても上品な、お色気を感じさせる、素敵な句です。作者ご当人も、良い句が出来て、嬉しいことでしょう。佳句をお示し頂き、有難うございました。 [孝多]

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≪今月の成績一覧≫

◆トータルの天=弥生・67点
代表句=切り分ける羊羹厚く菊日和
◆トータルの地=舞蹴・45点
代表句=かき合わす襟美しき菊日和
◆トータルの人=矢太・25点
代表句=菊日和ナイフに映る空の色
◆トータルの次点=虚視・23点
代表句=身に入むや旅に終わりのあるを知る

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≪幹事より、ひと言≫
●虚視さんに助けられてどうにか幹事が出来ました。
今回は兼題「後の月」に107点と最も点が入り、次は「菊日和」の99点です。秋を代表する「月」や「菊」に点が集まりました。「身に入む」も77点の票が入りました。次回の兼題がとても楽しみです。(華松)

●幹事として兼題を選ぶのは良いのだが、いつも難しい。「「山眠る」「山笑う」などは季語ならではの表現に大いに共感でき、山川草木、動物、行事、天文関係などにも納得するものは多いが、ブランコが何と春で、ハンカチ、襟足も夏だけのことではあるまい。只前のこふみ会でもやったことがあるのだが、今や21世紀。江戸時代ではない新しい時代の季語を、この句会で時には模索してみるのも意味のあることではないだろうか。(虚視)

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          『こふみ会会員限定アンケート』について
             孝多からの御礼・お知らせ

10月末までに、という回答の締め切り日が過ぎました。
その間、幹事さんには、各位への参加の呼びかけなど、大変お世話になり、有難うございました。
お寄せいただいた声は孝多には大いに参考になるものばかりでした。
回答の集計・取りまとめが済み次第、プライバシーに配慮しつつ、ご参加の全員に、相互理解の資料として、お届けする予定に致して居ります。
ご不明な点などございましたら、どうぞ下記までお申し出くださいますよう。
天候不順の昨今、皆様、折角ご自愛のほどを。ではまた。不一。

                      令和3年11月吉日  多比羅 孝多
                        FAX  048-887-0049
                        TEL  048-882-7577
                        

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岩永嘉弘

孝多さんにお願い
アンケートの内容は、あくまで内うちの意見交換ということで、公表はくれぐれも不問でお願いします。
こふみ句会は、俳句に対するいろんな考えを持つの人が集まって、自由に俳句を楽しもうと生まれました。こふみ句会は、俳界の一会派ではなく、宗匠を囲んで集まる句座でもない。その原点を忘れないように、固定概念から自由な座であり続けたいです。どうぞよろしくお願いします。
by 岩永嘉弘 (2021-12-12 23:38) 

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