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妖精の系譜 №13 [文芸美術の森]

アーサー王伝説のフェ 2

     妖精美術館館長  井村君江

超自然の力を備えた魔術師マーリン

 アーサー王の誕生に関わった魔術師マーリンについては、モンマスのジェフリーがその出生から描いているがそれによると、マーリンの父は人間でなく、夢のうちに無垢な乙女と交わり、子供を産ませる大気中に住むインキユバス(夢魔)であり、王の娘に求愛し産ませた子供となっている。高僧が王女を塔にかくまい、子が産まれるとすぐに洗礼を与えたので、悪魔に堕ちることをまぬがれ、かえって人間を超えた能力を備えて産まれたことになっている。透視の能力、人の運命を予知する力などを早くから身につけており、ソールズベリーのストーンヘンジの巨石もマーリンが魔法の力でアイルランドから運んだともいわれている。マーリンは変身の術も自在に使い、子供や老人、美しい女性、鹿や猟犬にも変身できた。また魔術を操って大軍を出現させ敵を恐れさせたり、敵の力を弱くしたり。、王の一騎打ちの相手を眠らせ戦いを勝利に導いたりする。アーサ主の円卓を作ったのも、不破の盾や宵を作ったり、キャメロットの城を建てたのもマーリンであったとする説も
ある。ユーサー・ペンドラゴンの助言者、戦術者として活躍し、さらにアーサ―王の保護者としてまた良き助言者として婁な役割をアーサー王の世界で果たすが、愛する湖の妖精ニミュエの策略にかかり、自ら教えた術によって永遠に石の下(一説には空中の牢)に閉じ込められてしまう。
 ジェフリーが魔術師マーリンを書く際モデルにしたのが、ウェールズに六世紀頃実在したといわれるメルディンという隠者(一説にはスコットランドのマーリン・シルヴェスター)であったといわれ、この隠者は発狂して森で暮らすうちに、予知の能力や透視力などを身につけ、自然の原理に精通し占星術や薬草を知り、しかもこの世の哲理にも戦略にも通じていた隠者であり、賢者であったといわれている。こうした隠者や賢者の姿に、さらにケルトの王に仕えていたドゥルイド僧の映像が重なって、マーリン像はできあがっていったようである。ケルト神話においては、ドゥルイド僧はつねに宮廷に存在し助言者として王に仕え、立法、司政、占星、医術や予言の術を行い、詩人でもあった。ペンドラゴンやアーサー王に仕え、政治や戦術で適切な助言を与えるマーリンは、ドゥルイド僧の姿と重なってくるように思われるが、たとえドゥルイド僧でないとしても古い異教信仰につながる超自然の能力を備えていたといえる。そして一方では、キリスト教の聖杯探求を騎士たちにうながしているので、マーリンは異教とキリスト教との橋渡しの役も、アーサー王伝説の中で務めていると言えるようである。
 一九八五年に、レフ・トルストイの孫にあたるニコライ・トルストイが『マーリン探求』という本を出し、研究の結果マーリンは六世紀にスコットランド低地(ローランド)地方に実在していたという結論をまとめた。→脱にマーリンのパトロンであったグウェンドロー王は五七三年にアーデリードの戦いに敗れ、ウェールズのケリドン(カレドン)の森へ逃れるが、そのとき王と共に身を隠したマーリンが実際に住んでいたと思われるハートフエルの峡谷に、マーリンのものと思われる洞窟を発見したというのである。トルストイは、マーリンがこの洞窟で生活しながら、人々に医術をほどこし『カーマーゼン黒書』に記されてあるような、ブリテンの未来の予言を行ったとしている。さらにマーリンはドゥルイド僧の愚後の一人で、この世とあの世を結びつけ天の聖なるものと地上の人間との間の媒体として、両者を交流させるシャーマンの役目をしていたと言っているのは興味深い。
 民間伝承の中に現われ、正直で貧乏な百姓夫妻に「親指トム」を与えるのもマーリンであるが、樫の木の杖(「ドゥルイド」とは「樫の木の賢者」の意)を手に、僧衣をまとい、ときにはドゥルイドの胸当(むねあて)(ヨツダンモラン)をつけた姿で、魔術を自在に駆使する魔法使いの映像となって、さまざまな物語に現われ、トールキンの『指輪物語』に登場する魔法使いガンダルフにまでマーリンの映像は投影しているようである。現実にあるさまざまな困難や不可能を、たちどころに除き、実現させる力を備えた実力者、スーパーマン的存在として魔術者はさまざまな物語に活躍しているが、そこには遠くマーリンが重なりあったドゥルイド僧の映像が辿れるようである。

『妖精の系譜』 新書館



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