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日めくり汀女俳句 №91 [ことだま五七五]

九月二十七日~九月二十九日

    俳句  中村汀女・文  中村一枝

九月二十七日
秋茄子や暮しの愚痴は言はぬ人
          『紅白梅』 秋茄子=秋

 「銀座百店」で汀女と父尾崎士郎とが対談したことがある。題も内容も忘れたが、当時ラジオ局に勤めていた私は、局から実家にひじきの煮方を教えてくれと電話した。父はそのことを「いやあ、ひじきはいい。湊一郎君が好きだそうですな。油揚げとの相性が実にいい。それに惣菜コロッケも好きだそうで僕もあれは好物で」と言っている。
 汀女が「まあ、家でろくな物しか食べさせなかったみたいで恥ずかしい」と言っている
のが面白かった。汀女は、食事作りは不得意だったらしい。そういう姑は嫁さんには有り難かった。

九月二十八日
ねむがりて子等寝しあとの虫時雨
          『汀女句集』 虫時雨=秋

 教育改革国民会議の中間報告で、奉仕活動の義務化があった。戦争中の子供にとって奉仕と言えば、勤労奉仕につながる。疎開先の小学校では薪を背負って山から運び、松ヤニ取りや、落下傘に使うとかで芒(すすき)の穂を集めた。そのこと自体は自然の遊びに似て楽しかった。ただ女学生になると親元を離れ、軍需工場での奉仕がある。終戦で真っ先に頭に浮かんだのは、もうそこへ行かずに済む嬉しさだった。奉仕活動は自らの意志でやるべきもの。上からの押しつけでは決して効果はないと、あれほど思い知ったはずなのに。
九月二十九日
秋薔薇の一夜さの艶二夜なほ
         『薔薇粧ふ』 秋の薔薇=秋

 リンゴの紅玉が出始めた。私の一番好きな品種、青味のさした表皮に鮮やかな紅色。口の中に含むと酸味一杯の汁が広がる。もう十年以上前から、惜しまれながら店頭から姿を消しつつあるのだ。と言っても、料理やケーキ用には欠かせない味だから、細々と寿命は保っている。確かにこまやかな甘さはふじの方が一枚上だろう。しかし、きりりと引きしまったこの味、小股の切れ上がったいい女というのはこういう味を言うのではないか。世
の中大味のものばかり増える中だから、いっそう私は紅玉のゆかしさに声援を送る。

『日めくり汀女俳句』 邑書林


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