私の中の一期一会 №247 [雑木林の四季]
女子ゴルフのスタンレ-レディス最終日。澁野日向子が2年振りの復活優勝に涙!
~4人によるプレーオフの2ホール目、ただ一人バーディを決めた~
アナウンサー&キャスター 藤田和弘
プレーオフの2ホール目、ぺ・ソンウ(韓国)のバーディパットが僅かに外れた。
一足先にバーディを決めていた澁野日向子に久しぶりのツアー優勝が転がり込んだ瞬間であった。
思わず目から涙がこぼれ、両手で顔を覆った澁野日向子だったが、「勝てなかった2年間を思い出しての涙でした」と試合後に取材陣に本音を洩らした。
女子ゴルフのスタンレー・レディス最終日は、4人が通算10アンダーで並ぶ大接戦になった。
澁野日向子、木村彩子、ぺ・ソンウ、高校3年のアマチュア佐藤心結(みゆ)の4人によるプレーオフで決着をつけることになったのである。
18番パー5で行われたプレーオフは、木村彩子が1ホール目でバーディを奪えず脱落。
2ホール目は、澁野とぺ・ソンウがバーディチャンスにつけたのに、アマチュアの佐藤は3打目をピンに当てる不運があって、ボールは7メートルほど戻ってしまった。
結局、アマチュア優勝はならなかったが、佐藤心結の健闘は大会関係者の賞賛を浴びた。
澁野日向子は2019年の大王製紙エリエールレディス以来、686日振りの優勝でツアー通算5勝目となった。
澁野は、このところ3戦連続でTOP10入りして好調を維持していたのは確かだ。
だが、この日のスタート前は特に優勝を意識することもなく、”悔いの残らないようにやろう“と心掛けていただけだった。
一時は首位と4打差まで離されたが、この日は最後まで食い下がった。
バックナインに入って、13,14番の連続バーディで失くしていた自信を取り戻す感覚があったのかも知れない。
15番でバンカーに落としてボギーを叩いたが、「ここまで来たらギアを上げていかないと後々悔いが残る」と“本気の澁野”になっていた。
首位と1打差で迎えた最終18番のパー5で、第3打は残り95ヤード。
ロフト52度のウエッジで1メートルにピタリと止めてみせた。
“シブ子、集大成の1打”でバーディフィニッシュしてプレーオフに持ち込んだのである。
優勝インタビューには落ち着いて答える澁野日向子がいた。
「久し振りのプレーオフでしたし、緊張感のある優勝争いも久し振りでした。優勝するのも2年ぶりだったので、プレーオフはすごく緊張したんですが最後まで自分らしくプレー出来たと思います」としっかりした口調で話し続けた。
これまでの2年間の苦労も振り返りながら「正直、こんなに早く勝てると思わなかったので、不思議な気持ちだけどすごく嬉しい」と喜びを語り、最後に大会主催者のスタンレー電気の皆様、東名カントリークラブの皆様などに「ありがとうございました」と感謝の言葉を述べて挨拶を締めくくった。
2019年の「全英女子オープン」を制し、“スマイルシンデレラ”として一躍国民的ヒロインになった澁野日向子は“メジャーで勝つことの重み”に翻弄されてきたと言っていいだろう。
海外メジャー初参戦で、いきなり優勝してしまうというストーリーは劇的だった。
一躍時の人になって、プレー中はもとより、オフでの一挙手一投足までもがメディアに取り上げられる毎日が続き、気の休まる時がなかったに違いない。
そんな流れの中でアメリカツアーを転戦したが、結果を残すことは出来なかった。
「一時は、19年の自分を超えることは出来ないかも知れない」と思い悩む日々を送ってきた。
澁野は、今年の初め頃からスイングの改造に取り組んできた。
以前よりトップの位置を低くして、強く振り抜くスイングの習得に努めたという。
トレードマークの笑顔も少なくなっていたのではないか・・
「あ~じゃ、こ~じゃ言う人の声が、嫌でも耳に入ってきたけど、“絶対見返してやる”という反骨心は捨てなかった」と述懐する。
澁野の5勝目を現場で見守った服部道子プロによると、
「澁野日向子には天性の勝負強さがある。改造してきたスイングも完成度が高まってきた。
プレーオフを含めた18番で連続3ホールを全てバーディに出来た確かな技術が勝因だと思う。
重圧のかかる場面ほど力を発揮する澁野日向子が戻ってきた」とベタ褒めであった。
痺れるような4人によるプレーオフに勝利して、「今は2年前の自分より強くなれる感じがしている」と語る澁野日向子にとって、計り知れない意味を持つ1勝になった。
今回のタンレーレディスでは、プロキャディではなくハウスキャディと組んで試合に臨んだ。
今週は。敢えて“自分自身でやる”という目標を立てていたからだった。
「どうホールを攻略するかのホールマネジメント。
ピンまでの距離とクラブの選択。
グリーン上のライン読み。・・など自分で考えてプレーした。
キャディに助言を求めたのは、そのホールに吹く特有の風があるかどうかぐらいだった」と振り返っている
“どうしようか?”という場面はたくさんあったが、全部自分で考えてやり遂げたのだ。
「すごく勉強になりました」と嬉しそうに話していた。
澁野日向子は来年、アメリカに主戦場を移したいと考えていると聞く。
ハウスキャディ起用は、来年以降を見据えて“全部自分でやり抜く経験”が必要だったからだとみられる。
来季を見据えてのトライであったとすれば、納得できる話だ。
11月下旬から12月初旬にかけて、8ラウンドを戦う来年の米女子ツアー出場権をかけた予選会に澁野も参加する予定なのだ。
予選会で20位以内に入れば、ほぼ全試合の出場資格を得られる。
45位以内だと10試合程度しか出られない。
もしそれ以下でも、帰国するつもりはないらしい。
下部ツアーのシメトラツアーに回ることも選択肢になっているからだ。
アメリカの下部ツアーは、優勝しても賞金は日本円で300万円前後だという。
日本からキャディを呼んだ場合、往復航空券やホテル代、報酬などを支払うと賞金はほとんど消えてしまう。
何度も優勝しないと赤字になるのは確実だが、いくら下部ツアーでも、何度も優勝し続けることなんて不可能に決まっている。
下部ツアーは、自分でバッグを担いで試合に出ることも覚悟しなければならない過酷な環境なのである。
澁野日向子は、今回の優勝で「今はいい感じで来ている。この感じを維持することが大事だ。やるべきことをしっかりやること・・」と今後の抱負を語るのだ。
15日に開幕する「富士通レディス」に2週連続優勝をかけて澁野日向子も出場する。
「2年前だったら2週連続優勝への期待はプレッシャーに感じたが、今はそんなことはない。
やるべきことは変わらない。今やっていることを続けることだ。
目の前の一打に集中することだ。
ドライバーは振り切れている。春先の頃と飛距離が違うのを見て欲しい」と自信のコメントを残している。
心配されたスイング改造もいい方向に進んでいる。
スイングスピードを上げるために強化してきた体幹も出来上がってきている。
「ドライバーのマン振り」といえば澁野日向子のことだと専らの噂だ。
ゴルフ紙ALBAは、スマイルシンデレラの成長ロードはまだまだ続く・・と書いている。
2021-10-13 07:56
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