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海の見る夢 №15 [雑木林の四季]

                 海の見る夢
            -The End Of The World-
                     澁澤京子

 夏の終わりのある夜のことだった。どうしても甘いものが食べたくなって、といっても八ヶ岳の山の家。妹の運転する車で、山を下りたところにあるコンビニまでお菓子を買いに行ったのである。コンビニに着いてしばらくすると、女性と子供の団体が店に入ってきた。女性はノーメーク、子供も全員がなんとなく着の身着のまま、といった感じの服装で、全員の買い物をまとめて、一人の女性がビニール袋に入った小銭だけで支払っている。コンビニの店員が大量の小銭を数えるのに苦労していた・・ちょうど連日テレビではオウム真理教の報道が流れていた頃で、上九一色村と八ヶ岳は近い。もしかしたら、逃げてきたオウム真理教の人たちかもしれないね、と妹と話したのだった。

地下鉄サリン事件から26年。オウム真理教事件は、宗教の問題のみならず、閉鎖的な社会ではどういう問題が起こるかという意味でも、今の時代を先駆けするような事件だったと思う。

「集団被害妄想」「仮想敵」「陰謀論」「光と闇の戦い」「影響力のある人物を崇める」・・今の社会にも蔓延するこうしたファシズムの特徴をオウム真理教はすべて持っていた。統一したイデオロギーがないところもファシズムの特徴。オウム真理教の事件は、決して特殊な人たちが起こした特殊な事件ではない。かつてのイタリア、日本、ドイツがそうであったように、閉鎖的で不安な社会だったらどこでもファシズムは起こりうる。

トランプが大統領に選ばれた頃、シスター・キャサリンがアメリカの分断をとても心配されていて、トランプ支持派と非支持派の間の溝はそこまで深いんだろうか?と思ったことがある。二大政党、共和党と民主党の間の溝が以前よりひどくなって、バラバラになっているらしいのだ。

「被害者意識」を持ちやすいのは、自分は「清く正しい」と思っている人々である、オウムのような宗教修行集団では特に、自分たちの「清く正しい」はより強化されて、自分たち以外の外界は悪で汚れたものとなり、集団被害妄想に陥りやすくなるかもしれない。

こうして「仮想敵」が設定される。「仮想敵」は国家が己の悪事から人々の目をそらせるために、また、バラバラな人々を結束させるために、政治的に意図的に作られることが多い。オウム真理教の集団は、バッシングされ、居場所を追われるごとにますます「自分たちは国家を超える大きな力によって迫害を受けている」という被害者意識が強くなっていった。(麻原は世界最終戦争を阻止する中心人物と考えられていた)

「陰謀論」ナチスのユダヤ人迫害には、ユダヤ陰謀論がある。当時の社会は経済的に逼迫しており、富裕層や知識人が多かったために一気にユダヤ人は標的にされた。富裕層の多いユダヤ人が世界(金融)を牛耳っているというもので、日本人に多いユダヤ人観(ユダヤ人は優秀、天才)と表裏一体のものではないだろうか。そして、恵まれたユダヤ人に対する民衆の憎悪をナチスは利用したのだ。ユダヤ陰謀論と同じく古い陰謀論には「イルミナティ」(フリーメーソンが世界を動かしているという陰謀論)があって、どちらも、世界は闇(悪)の組織や支配者によって動かされているというもの。

問題なのは、トランプ支持のQアノンでは、トランプが小児売春など悪を行う「ディープステート」(闇の組織・民主党のエリートとか入っているらしい)と戦う光の救世主と言う、漫画のような陰謀論を信じているということ。それって、麻原は世界最終戦争を阻止する中心人物と信じていた、かつてのオウム真理教信者とそっくりではないか。

そうすると、バイデンも不正選挙で当選したということになるし、反コロナワクチン、反地球温暖化もトランプ支持者の陰謀論とつながってくる。トランプは両方とも否定しているからだ。「コロナワクチンは人体実験」「コロナはただの風邪」「コロナはビル・ゲイツの陰謀?」ということになり(民主党支持者はほぼワクチン受けているのに対し、共和党支持者は半分以上拒否)、さらに、トランプは地球温暖化も否定しているので、「地球温暖化の原因はCO2ではない」「地球温暖化説は科学者のお金儲けのための陰謀」ということになる。
一体なぜ、人はそのような荒唐無稽な陰謀論にはまってしまうのだろうか?陰謀論にはまりやすい人は、他人に流されやすく、他人の噂を真に受けるような人間が多いのだろうか反コロナワクチンの場合、コロナ下の不安と孤独に耐えきれず、たとえ荒唐無稽でも、陰謀論に飛びつくのだろうか?あるいは、出来事には偶然も無意味も存在せず、すべてのことは意図的な計らいによって起こると考えているのだろうか?
もう一つ考えられるのは、オウム真理教もSNSのコミュニティも閉鎖的な社会であるということ。日常でもSNSでも、どこか共有できるような人間同士の方が相性が良い。そうするとどうしても価値観の似た者同士が集まってしまうので閉鎖性は免れない。
シスター・キャサリンが心配されていた『分断』。陰謀論にはまると、それを信じない人とのコミュニケーションがまるで不可能になってしまう・・反論すればするほど、反論する側は「メディア(あるいは闇の組織)に洗脳されている」ことにされてしまうからだ。共和党と民主党の会話が不可能になる原因としてQアノンの「陰謀論」があるのだろう。
「光と闇の戦い」ナチスは人々が現実判断を持たないように「神話」を利用した。『鬼滅の刃』がヒットして大人も行列して見ていると言うので、アマゾンで見てみたけど、まさにあれは「光と闇の戦い」だろう。(正直、半分も見ることはできなかったが・・)
「陰謀論」を見ると、「光・闇」「善・悪」二元論の世界観。そうした世界観に、嫌中国・韓国の右派や、スピリチュアリズムやニューエイジが飛びつくのはとてもわかるし、アメリカのように、常に「悪の枢軸国」を必要とする国で陰謀論が盛んなのもわかる。
何が正義なのかよく分からない相対主義の時代には、はっきりとした「善・悪」を提供してくれるアニメや映画、陰謀論に飛びつくことによって、人は安心するのかもしれない。あるいは閉塞感あふれる現実から逃避するために、大人もそういったファンタジーにはまるのかもしれない。
オウム真理教も、陰謀論にはまるのも、決して特殊な人に起こることではない。悪(世界)を単純化して考える人間、現実から逃避したがる人間は誰でも陰謀論に飛びつく可能性はあるし、自分の中の闇を見つめるのではなく、常に外側に闇や悪を設定し、自分を被害者とする自己憐憫の強い人間、常に自分は絶対に「清く正しい」と思い込む人がいる限り、誰でも、オウム真理教の狂気に陥ってしまう危うさを持っている。それらは、拡大されたエゴイズムに過ぎないのだ。
・・・あらゆるものに自分自身を求めれば、あなた自身を見出し得ようが、ただそのために滅びに至るまでである。『キリストにならいて』トマス・ア・ケンピス

陰謀論チャート.jpg
           


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