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検証 公団居住60年 №96 [雑木林の四季]

ⅩⅣ 住生活基本法は小泉構造改革の総仕上げ

    国立市富士見台団地自治解消  多和田栄治

6.住生活基本計画の中身

 小泉内閣にはじまり「基本法」と名のつく法律が乱造されている。個別法として対処せず基本法にしたのは、基本法は施策の基本的な理念と方針を示すにとどまり、国民の具体的な権利義務にかんする規定はなく、したがって国は義務を負わず、責任を問われずに行政の見せかけ、言い逃れもできる利点をねらったのであろう。住生活基本法のばあいも、国民の居住を「権利」として認めず、国および地方自治体の「努力目標」をかかげるのみで、具体的な義務と責任からは免れる仕組みになっている。
 基本法が成立すれば、あとは政府が計画・方針を策定し、国会には事後に報告される。行政府の専制、国会無視を許し、基本法は事実上空洞化する。基本計画には、基本法制定のさいに国会で審議された事項、大臣が答弁した内容、付帯決議の趣旨はいささかも反映されていない。政府がこの先10年間の住生活基本計画(全国計画)を立て、これに即して作らせる「都道府県計画」にもとづき、地方自治体は地域住宅交付金等の財源の枠内で必要な措置を講ずるよう努める建て前である。施策の責任を都道府県に、さらには市区町村に転嫁していく道をひらいた。
 国土交通省は2006年6月28日に「住生活基本計画(全国計画)」案を発表、7月27日には社会資本整備審議会住宅宅地分科会が「今後の公的貸賃住宅帯暖等のあり方に関する建議(案)」を出して政府案を正当化した。全国自治協は両案に7月27日、8月18日に意見書を提出した。
「住生活基本計画」(06年用19日閣議決定)は、はじ釧こ「憲法25条の趣旨が具体化されるよう、公平かつ的確な住宅セーフティネットの確保を図っていくことが求められている」と主客不明の一文に、居住確保は「市場において一人一人が自ら努力することが基本」とつづける。そして、日本経団連が提言した「基本計画に盛り込むべきアウトカム指標」をそそまま、耐震化率、バリアフリー化率、省エネ化率、住宅性能表示実施率などの指標だけを設定する。
「住宅セーフティネットの構築」といいながら、計画には住居費負担の限度基準等の定則まなく、したがって公共住宅等の供給目標や事業量もいっさいない。住宅建設5カ年計画が予算の裏付けとともに策定されたのにたいし、これがまったくないのが住生活基本計画の最たる特徴といえようハ

7.「住宅セーフティネット法」とは

 住生活基本法が制定されたあと、2006年9月に小泉内閣は安倍晋三内閣にかわった。同基本法6条は「低額所得者、高齢者等の居住の安定の確保」をうたいながら、その実現のための法整備も具体的施策も講じていなかった。全国自治協は基本法成立直後から、これらの問題について意見書を提出するほか、自民党の公団住宅居住者を守る議員連盟との会合、国交省折衝等を精力的にかさね、年明け2月16日には冬柴鉄三国交大臣をたずね要請した。
「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」(住宅セーフティネット法)案は、第166国会に07年6月8日提出され、7月6日に公布された。公共住宅政策の縮小と市場開放をすすめる上で、その弁明として最低限ととのえざるをえなかった。それが要配慮者にとって真に実効ある安全装置となる保証はない。
 住宅セーフティネット法はまず対象を「住宅確保要配慮者」とよび、公営住宅法が「住宅に困窮する低額所得者」と表現する一般概念をカテゴリー化して、「低額所得者、被災者、高齢者、障害者、子どもを育成する家庭その他住宅の確保に特に配慮を要する者」と規定する。法の目的は、公営住宅法が国と地方自治体に「健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を低廉な家賃で賃貸する」ことを義務づけているのにたいし、住宅セーフティネット法は「賃貸住宅の供給促進をはかるため必要な施策を講ずるよう努めなければならない」と、居住水準や家賃負担は棚上げして「努力目標」をかかげる。その中核をなすのは「公的賃貸住宅」、公営住宅をはじめ都市機構・公社の貸賃住宅等であり、民間住宅もふくまれる。
 「必要な施策を講ずるため」この法が定めているのは、住生活基本法に準じ、(彰国土交通大臣が基本方針を決める、(診それに則して地方公共団体は公的賃貸住宅の整備および管理にかんする事項等を地域住宅計画に記載するよう努める、(諺地方公共団体、宅地建物取引業者、賃貸住宅事業者等で「居住支援協議会」を組織することができる、この3項を定めているだけで、そのはか要配慮者の所得や心身の状況の確認とか、「自立」支援等にかんする条項など全12条からなる法律である。ここでも国は施策をあくまで地方公共団体にゆだね立場をとっている。
 住生活基本法をはじめ住宅セーフティネット法もその最大の問題点は、居住確保を国民の権利、国の義務とは認めない立場をつらぬき、かつ法律がもつべき明確性を欠く、明確な規定を避けていることにある。住宅施策が、国民の権利にたいする国の義務の履行ではなく、「住宅確保要配慮者」と格付けされた国民への「配慮」であり、したがって、その施策はあくまで配慮する側の努力目標、いわばお上のお情け次第という位置づけになる。
 住宅政策はもはや社会保障ではなく、救貧対策としての「措置」、供給されるとすれば、「住宅」の理念からほど遠い、本質的には「施設」にすぎず、住まいにおける差別をさらに強め固定化するものである。公営住宅法が本来しめした目的、国および地方自治体の責務から決定的に後退している。
 では具体的にどういう状況になった場合、いかなる措置が受けられるのか。本法は施策対象者の資格要件を明確にせず、したがって対象者の住居費負担の限度、最低限度の居住水準、居住継続の保障等にかんする定柳まいっさいない。住宅セーフティネット法適用の基準も内容も明示されていなければ、それを要求できる法的根拠、手がかりもなく、国民はお上のお情けを待つよりはかない。この法の実効性をしめした実例は聞いたことがない。

『検証 公団居住60年』 東信堂


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