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エラワン哀歌 №9 [文芸美術の森]

蜘昧

        詩人  志田道子

 水滴が滴るような音を立てて
 時計は時を刻み
 窓ガラスを滴る雨水は
 いつのまにか
 流れを止めている
 空は明るくなって
 蜘珠は窓ガラスをゆっくりつたって
 登りはじめる
 ガラスの向こうには
 蚊がよろよろと飛んでいたり
 高く空を旋回する二三羽の鳥
 蜘味は見ているのか
 蜘妹は八本の足と八つの目
 二つの触角でガラスを舐めながら
 ゆっくり歩き回る
 ドラマは起きないよ
 私はただずっと
 若い蜘蛛の小さなやわらかい
 体を叩き潰せば
 ひらべったい皮がガラスを汚すだけと
 想像しているだけなのだから
 私は潔白だ
 厚い雲の下の
 午後四時の時空のなかで
 用心深く歩みを続ける
 まだ若い雲を見ているだけなのだから

『エラワン哀歌』 土曜美術社出版販売





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