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エラワン哀歌 №7 [文芸美術の森]

閏九月十三夜

     詩人  志田道子

 鶏(にわとり)は太古の巨獣の
 甲羅の匂いのする
 脚を高らかに振り上げ
 鋭い悲鳴をあげて
 疾走する
 百七十一年ぶりの自由
 卵を腹に学んだまま
 ではあるが

 人の胃袋も子宮も外皮だと
 最近気付いた
 見知らぬ幼子が女の体に入り込むことはない
 女の体の外側の一部を
 いっとき貸してやっているだけだった
 という 理屈をやっと見つけて救われた
 女は見知らぬ強欲に粉微塵に食い尽くされることはない
 なので……
 蹴る子 殴る子 怒鳴る子 泣く子
 たった一度の命を貸してやった恩義も知らず
 消えて無くなれ 此畜生

 後にも先にも
 夢だけが現身(うつしみ)を救うのだから
 岩群青の真空に漂う
 巨大な月明りのもと
 鶏よ 駆けて行け
 もういちど

『エラワン哀歌』 土曜美術社出版販売


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