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エラワン哀歌 №4 [文芸美術の森]

はなの午後

          詩人  志田道子

 幼児が語り掛ける声に
 長いひるねの夢から覚めると
 路地裏の小さな庭には
 さくらのはなが散る
 やわらかなはなびらの群れ
 なかに数枚
 風に吹かれて清緑に上がり
 畳の上を駆けてゆく
 やがて群青色の空が黒い枝を包み
 閲を逃れたはなびらが時折いくつか風に舞う
 はなは流れる はなは落ちる はなは飛ぶ
 はなは撥ねる はなは回る はなは留まる
 はなは舞う
 
 記憶は人の心に留まる術を失い
 今日という日は心もとない
 はにかむ笑顔が老人の頬に甦る
 
 幼児は消えた
 ひととき闇を逃れたはなびらは漂う

『エラワン哀歌 志田道子詩集』 土曜美術社出版販売


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