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日めくり汀女俳句 №84

九月三日~九月五日

  俳句  中村汀女・文  中村一枝

九月三日
朝露の秋草も摘み髪も硫き
       『花影』 朝露=秋 秋の草=秋
 「あれっ、叉色を変えたの?」息子の髪の毛の色を見て思わず笑い出した。一年の間に六回以上も、金・緑・灰色・まだら………職業がデザイナーだから、まわりもさして気にとめない。それにしても髪の色、髪型、これだけ自由なのに、未だにくせっ毛にストレートパーマをかけさせたり、天性の茶髪を黒に染めさせたりする学校もあるらしい。
 私も若かったら、きっと、いろんな色に染めちゃって楽しんだかも知れない、と言ったら、友人のヘアデザイナー曰く、
 「あんた、これだけ髪の毛を痛めつけてりゃあ、三十年先には多分そこいら中、ハゲになると思うわよ」

九月四日
明日たのむ心に秋の行方かな
         『薔薇粧ふ』 秋=秋
 昭和二十五(一九五〇)年汀女は五十歳。
自分はずいぶん年をとったと言っているが、今の感覚で五十歳は若い。「風花」の刊行も順調、句会も人が増え、あちこち講演にも引っ張り出される。そういう目立つことが特に好きな人だったとは思わないが、にぎやかで華やかなこともまた好きな人である。
 「風花」のいわれについて、風花とは晴天に風が吹いて小雪の舞うことを言うが、汀女は、風も花も、その日その日に新しい、そういう心だと言い、今日の風、今日の花という心境だと述べている。

九月五日
秋桜会ふ人との み思ひ来て
          『春暁』 秋桜=秋
 「お嬢さんに好きな人がいるのか」。
 そういう問い合わせをしてきたのは、四十年前、「週刊朝日」の新延修三氏だった。聞かれた両親は困ったらしい。その頃私は、まさに好きな人がいてのぼせていた。でも相手が振り向いてくれない。毎日悶々としていた。彼は父の担当の出版社の人、父は意を決して「娘を貰わないか」と言ってくれた。言われた方は当惑したらしい。はかばかしい返事のないまま、半年以上過ぎた。
 中村汀女の長男だという男の写真が新延氏から届いたのは、それから四カ月後のことだった。

[日めくり汀女俳句』 邑書林


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