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検証 公団居住60年 №81 [雑木林の四季]

ⅩⅢ 独立行政法人化して都市再生機構に改組
 
     国立市富士見台団地自治会長  多和田栄治

9.都市再生機構の中期目標と中期計画

 都市機構の性格と方向は、発足にさいし公団終期のバランスシートを乱暴に作りかえたその中身にもはっきり見ることができる。そうしなければ都市機構は発足できない、そのために都市機構に改組したとさえ思えた。
 ①地価バブル崩壊後にも借入金を年々増やし、つぎ込んで都市開発部門の資産を膨らませ、地価下落により保有地は不良資産化している。②借入金の利子負担は営業利益を上回り、同部門の経常利益は連年赤字を出し、公団経営を圧迫している。③公団の営業利益の概ね9割を生みだしてきたのは賃貸住宅部門であり、家賃収入が部門収入の9割を占める。④乱脈経営のツケは賃貸住宅部門の家賃収入に回され、家賃くりかえし値上げへの圧力となった。
 ⑤公団は、かつては広大な塩漬け土地を買い込み、バブル崩壊後は銀行・大企業がかかえる不良債権処理にあたってきた。そして今、リスクが多く利益の期待できない基盤整備をになって民間ディベロッパーに奉仕する都市再開発を事業の最重点にしている。⑥機構設立後の2005年6月には公営住宅法等一部改正によって、家賃収入が主体をなす賃貸住宅事業利益を赤字部門に繰り入れることを法定化した。
 ①公団経営の失敗や財務の不健全さへの反省、まして抜本的改善への方向性はまったく見られない。「時価評価」を理由に部門別の資産評価額をすり替え、「繰越欠損金」を計上して機構の開始バランスシートを作りかえ、政府・機構幹部の積年の無責任経営のツケと失敗を帳消しにした。⑧そのうえで、「都市再生」事業の名のもとに国家的プロジェクトに格上げし、大企業に奉仕をする都市開発に機構事業を重点化していく足場をならし、賃貸住宅経営の営利事業化に拍車をかける体制をととのえた、と言わざるをえない。

 独立行政法人の役割、組織・運営の大枠については、すでに述べた。機構業務は、政府がきめる「中期目標」とこれにもとづいて機構がつくる「中期計画」に列記されている。第1期の中期目標・計画の期間は04年7月1日~09年3月31日である。
 業務の重点は、民間ディベロッパーに新たな事業機会を創出するための市街地整備と民業支援におく。既存賃貸住宅の管理は「ストック再生・活用」を中心とする。業務運営については、その効率化と財務内容の改善を目標にかかげ、2008年度末の目標期間までに一般管理費20%以上、事業費25%以上を削減する、「譲渡収入、家賃収入の確保、資産売却の促進等により収入を確保する一方で、徹底したコスト削減等により支出を削減する」としている。
 この政府の「目標」にそって機構がつくる「中期計画」、さらには「ストック総合活用計画」は、既存住宅にかんして「棟単位で売却に努める」を前提に、「事業効率の高い」団地の建て替えと、「市場価値を高める」増改築の推進が柱だという。経常的な住宅の維持保全こそ居住者共通の第一の要求であるが、順位は最後の項目である。なお建て替えをつうじて目標期間中に住宅戸数を7,000戸減らし、整備敷地100haを生みだし売却するとしている。
 機構は「建て替え」も「ストック活用」も、その目的が住宅戸数の削減と整備敷地の売却にあることをいっそう明確にした。建て替えによって造りだした敷地の売却実績は、十数年をへて2004年度末までの公団期に約61haである。機構になって5年間で100haを売却するという。その加速ぶりの具体例として、05年3月24日に機構全支社合同でおこなった民間事業者向け用地売却説明会と、4月27日に衆院国土交通委員会でとりあげられた東京・ひばりが丘団地の建て替え計画変更の問題をあげておく。
 ひばりが丘団地では自治会と旧公団が10年余にわたって話し合いをかさね、自治体をふくめ団地全体のまちづくり構想に同意したうえで建て替え事業を発足させた。2,714戸を建て替え3,600戸に増やそうという計画であった。第1期工事は1999年3月、1,346戸に着手した。機構への移行をはさんで第2期、1,368戸に着手予定の2005年3月までなんの連絡がないまま、機構は突如、三者の合意をM一方的に破棄して大幅変更した第2期計画をしめして着工説明会を強行しようとした。建て替えは戻り入居者相当分にとどめ、総戸数は、3,600戸構想を1,700戸に縮小する、広大な「余剰地」は、あきらかに民間売却を視野にいれて「他に活用する」といいだした。
 「中期計画」は建て替え事業を中期目標期間中に概ね150地区で実施し、70地区完了するとともに、建て替えによって生みだす整備敷地100haの売却をかかげている。それにさきがけ機構は、売却対象全国50地区、約46haについて民間事業者向け説明会をひらくなど、建て替え計画の大幅変更とともに、敷地売却に本格的にのりだした。
 「余剰地」売却がねらいの建て替えとともに、住宅管理コストの削減も中期計画の重点課題である。機構は「コスト構造改革プログラム」をつくり、2007年度において対02年度15%の総合コスト縮減とその方策をさだめた。また現地管理業務(居住者対応、窓口案内等)では民間委託の拡大をはかり、05年11月には、500戸未満の1,000団地の現地管理業務を09年度までに民間に委託すると意向をしめし、06年度には76団地を委託し、年々拡大していった。一般競争入札による工事および管理の業務委託の拡大は、安かろ悪かろの結果をまねき、非効率と混乱、サービス水準の低下となってあらわれた。

『検証 公団居住60年』 東信堂


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